Oct 03, 2019 column

藤倉大、ブーレーズを語る

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作曲家であり指揮者であることがコインの表裏

ブーレーズの特徴のひとつが、作曲家であることと、指揮者であることが、コインの表と裏のように、高度な次元で結びついていることである。前者が新しい音を生み出す仕事だとすれば、後者はそれをよく読んで、実際の音にする仕事である。その「読む力」の眼光の鋭さも、ブーレーズの特徴である。藤倉さんは、ルツェルン音楽祭の事務局でのブーレーズとの初めての出会いのときに、自分の作品の楽譜を読んでもらうという体験をしている。

藤倉

そのときは、約束の時間より1時間も早く着いちゃったんです、そわそわしてね。事務局の人が、一緒にお茶でも飲みながら待ちましょうと言って、通してくれたんですが、向こうの部屋のドアの開いているところから、ブーレーズが僕のスコアを見ている後ろ姿が見えた。僕の足音が聞こえたんでしょうね、パッとこちらを見て、まだ!という感じで、指揮しているときの例のあの身振りで、こちらを押しとどめた 。

ブーレーズがスコアを読んでくれているだけでも、26歳の若い作曲家にとっては興奮ものだったに違いない。

藤倉

1時間たったところでパッとドアが開いて、『Now, I’m ready(準備はできた)』。そのときにブーレーズが見ていたのは、2つのオーケストラ曲です。ひとつは、セロツキ国際作曲コンクールで勝ったときの曲で、もうひとつは武満徹作曲賞で2位をとったばかりの曲。

そのときブーレーズが言ったのは、前者はアマチュア的なスコアだが、後者はプロフェッショナルに書かれている、と。そして『1998年から2002年で、4年でこれだけ変われるということは、君の2年後に賭けたい』。 武満徹作曲賞の曲は、『最近演奏されたのを聴いたばかりなら、実際に聴いてみて自分に対する批評は?』と言われた。自分の曲の良くない点なんて挙げ始めたらきりがないので、ここも、ここも、と10個くらい言ったときに『この曲はそこまで悪くない。それ以上言わなくていい』。笑いながら止めてくれました。最初から性格的には意気投合しましたね。仲良くなれるといったら、すごい偉そうなんですけど(笑) 。

ブーレーズといったら音楽における知のカリスマなのに、あっという間にそうやって打ち解けるあたりは、藤倉さんの音楽と人間性によるところでもあるのだろう。

藤倉

真面目なだけじゃなくて、悪ふざけが好きな人なんです。ああ見えても、目の奥にニヤッとするようなものがありますよ。茶目っ気、いたずらっぽいところがある。こう言うのも何ですけど、音楽学者や、アカデミックなものを書く人たちが、彼の印象を違う風にしているんです 。

2003年4月21日サントリーホールにて、グスタフ・
マーラー・ユーゲント・オーケストラを指揮するブーレーズ。
このときの演奏曲目は、ベルク「管弦楽のための3つの小品op.
6」、ウェーベルン「管弦楽のための6つの小品op.6」、
マーラー「 交響曲第6番イ短調」と、6という数字でまとめられていた。 ©️K. Miura

ちなみに、ブーレーズのキャリアの最初は、ジャン=ルイ・バローの劇団の音楽監督の仕事であった。つまり劇伴音楽の作曲と指揮である。バローといえば映画「天井桟敷の人々」(マルセル・カルネ監督、1945年制作)の主演で知られる、フランスを代表する俳優である。ブーレーズと演劇のつながりは、意外に深い。晩年には、幻想的な騎馬スペクタクルで知られるジンガロとストラヴィンスキー「春の祭典」でコラボレーションしたこともある。ジャンルレスという意味では、ロック界の前衛フランク・ザッパの楽曲を演奏・録音したこともある。ガチガチのアカデミズムの人ではないことは、覚えておくべきだろう。

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