May 17, 2023 column

第31回:米業界紙が絶賛 児童書米作家ジュディ・ブルーム原作の映画『神さま、わたしマーガレットです』

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児童書米作家ジュディ・ブルームの原作「神さま、わたしマーガレットです」が初めて映画化され、米業界紙が絶賛。ほぼ同時に作家自身のドキュメンタリー映画『ジュディ・ブルームよ永遠に』も公開された。なぜ80年代に一世風靡した作家が今、アメリカで話題なのか。それは去年から加速している米公立学校や図書館においての書籍禁止に抗議する文化的論争の一つとなっているからである。

現在、アメリカ全土、とくにテキサスやフロリダの保守派人口が多い地域で拍車がかかっている貸出禁止本のリストは州や学校区域で内容は異るものの (ペンアメリカの調査) 、この原作を含むジュディ・ブルーム作品が貸出禁止になったことも多々あり、宗教や性への関心、人種差別の歴史をあからさまに表現した題材が子供たちに悪い影響を与えると検疫されるセンサーシップは現在、アメリカで最もホットな教育問題となっている。映画のコメディタッチな内容からは想像のできない社会問題が物語の背景になっているので、ここで紹介したい。

Abby Ryder Fortson, from left, Amari Price, Elle Graham and Katherine Kupferer “Are You There God? It’s Me, Margaret.”
(Dana Hawley / Lionsgate)

映画『神さま、わたしマーガレットです』

作家ジュディ・ブルームが米国のジェネレーションX、ミレニアル世代に与えた影響は計り知れない。アメリカ人、とくに女性の間で知らない人はいないほど、ジュディ・ブルームの児童書は70年代から90年代に少女だった女性たちに愛され、現在でも母から娘へと読み続けられている。日本で翻訳出版された作品も多く、幼児対象の児童書「ひみつのそばかすジュース」は、生まれ持った肌を大事にすることを教訓にした絵本。ヤングアダルト小説『さよならをいう時間もない』は父親の急死から生活が一転した10代少女が主人公の子供から成人になるまでの過程を描いた物語。センセーショナルなベストセラー本として知られる『神さま、わたしマーガレットです』は9歳から12歳が読むミドル児童書としてタイムマガジンでも推薦されている。

ボヘミアンなニューヨークの都会からニュージャージ郊外の住宅街へ引っ越した11歳の主人公マーガレットは転校生として新生活を迎え、胸を高鳴らせる。しかし、彼女の最も嫌いなことは、宗教に基づく行事。なぜなら、ユダヤ人の父、そしてキリスト教で育った母の教育方針は無宗教。娘本人の意思を尊重して18歳まで、どの宗教にも属させないという家庭環境は、思春期のマーガレットにとってはどこにも属さない複雑な立ち位置。同級生がそれぞれ信仰する宗教について考え、本当に神さまはいるのかというマーガレットの素朴な疑問や願いを中心に物語は展開していく。さらには、転校生として好かれたい一心で、秘密の女子会のメンバーとなり、自らの発育度に疑問を持ち始める。いつになったら胸が膨らむのか、なぜ生理がこないのかなど、思春期で多感なマーガレットの率直な性への疑問をおもしろおかしく描いている。

原作権を手放さずにいた現在85歳のジュディ・ブルームに直接交渉したのが、脚本家兼監督のケリー・フレモン・クレイグ。監督の情熱にあふれた、パーソナルでユーモアいっぱいの手紙が原作者のハートを射止めたそうだ。フレモン・クレイグ監督は青春映画『スウィート17モンスター』で初脚本、監督を務め、インディペンデント作品を大ヒットさせた手腕の持ち主。主人公を務めたのが、映画『トゥルー・グリット』で14歳でアカデミー賞にノミネートされた女優ヘイリー・スタインフェルド。親友役に、HBO人気ドラマシリーズ「ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル」で若手注目ナンバーワンだった女優ヘイリー・ルー・リチャードソン、教師役を『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のウディ・ハレルソンが好演するなど、脇役もベテランで固められた青春映画で、公開当時、ニューヨーク映画批評家協会の新人監督賞を受賞し、ティーンの孤独や疎外感を描いた内容が評価された。

脚本家のインタビューが掲載されるウェブサイト、スクリプマグによると、ケリー・フリーモン・クレイグ監督は、原作を脚色しはじめたとたん、すべてのインスピレーションが消えて、ジュディ・ブルーム・ファンの期待をうらぎるのではというプレッシャーの中で、筆がすすまなかったそうだ。「まるで1つの部屋に大勢のファン、そしてジュディもいて、11歳の私がいるような威圧されるような感覚だった。私の自身欠如な状態で物を書いているときは、1文字もかけないものよ。だから、みんなを部屋の外に出して、私という1人のファンの目線で書き、私が納得するものを作り出せばよいのだと確信した後は、洪水のようにアイディアが湧いてきたの。」と語っている。

映画『神さま、わたしマーガレットです』の主人公マーガレットを演じるのが『アントマン&ワスプ』で子役を演じたアビー・ライダー・フォートソン。その母バーバラ役は『きみに読む物語』の女優レイチェル・マクアダムズ。娘と同じく、母となっても1人の人間としての生き方に悩み、親から反対された結婚生活、疎遠となったキリスト教信者の両親との関係の中で試行錯誤する様子など、元祖ジュディ・ブルーム作品要素に溢れていて、米批評家ともども、劇場に足を運んだジュディ・ブルームのファンたちに好評なこの映画。夫のユダヤ人母を演じるのが『ミザリー』で人気作家の熱狂的ファンを演じたキャシー・ベイツ。孫の気を引こうとあれこれ企むユダヤ人祖母の役はベテラン、ベイツの魅力を倍増させ、母の日を前後に興行収入がファン以外の層を見込めるのか、注目されている。