Apr 26, 2023 column

第30回:ベン・アフレックの挑戦

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先週の4月17日、全米脚本家組合(WGA) がメンバー98%の賛成で脚本家ストライキの実施を承認した。来月5月1日までに、映画、そしてTV番組会社側とのギャラ交渉などがまとまらなければ、ストライキが決行され、ハリウッドのエンタメ業界は、放映そのものを延期や中止にしなくてはならない。そのWGAメンバーでもあるベン・アフレックの最新映画『AIR/エア』が現在、全世界でほぼ同時公開されている。

監督も務めるベン・アフレックは約20年前、相棒マット・デイモンとともに、映画『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1998) で、脚本家としてアカデミー賞を受賞。その後、俳優としてもキャリアを躍進させた。昨年11月、ベン・アフレックがマット・デイモンとともに始動させたのがプロダクション会社アーティスト・エクイティで、この作品が第1作。新会社のモットーは斬新でプロデューサー、ディレクターだけが アバーブ・ザ・ラインという映画収益に関われる仕組みを取り払い、カメラマンや編集マン、コスチューム・デザイナーなど映画で主要な役割を果たしたスタッフもそのシェアに参加できるようなプロダクションの理想郷をめざすという会社方針。

ARTISTEQUITY

現在のWGAが配信サービスの利益分配において交渉している内容は、アバーブ・ザ・ラインとされる脚本家の間でもランクの不公平さが問題になっていて、とくに配信サービスの場合、名のある脚本家にはエージェントを通じて特別手当てが交渉されても、中低層の脚本家には健康保険も最低限という脚本家の労働環境が問われているのである。中堅になったベン・アフレックとマット・デイモンがこの映画を皮切りに今後の映画作りの改革をリードしている。

スポーツ用品の大手メーカー ナイキは80年代、ランニング部門としては知名度が上がっていたものの、バスケットボール界では、アディダスやコンバースがリードし、有名選手は見向きもしない傾向にあった。映画『AIR/エア』はナイキの一社員が当時、ルーキーとしてデビュー前のマイケル・ジョーダンとタイアップした靴、「エアジョーダン」を作るまでの秘話で、スポ根ビジネス戦略のドラマを描いた作品である。

ベン・アフレック演じるナイキ創業者、フィル・ナイトと日本の関係は深い。現在、スニーカーなどトップを走る有名ブランドに成長しているが、70年代には、日本企業オニツカタイガー(現在アシックス傘下)や日商岩井と関係を持ち、アスレチックシューズの大量生産を目指すなど、戦後に成功した企業家の一人として、闇から光へ導くグールー、リーダー的な存在で知られている。映画の中でも彼のビジネス名言が要所要所にでてくる。「成功するためには、これが最後のチャンスだと思ってトライすることだ。」「チャレンジしなかったら、成功するかどうかさえ分からない」など著書「SHOE DOG ( シュードッグ ) ―靴にすべてを。」でもフィル・ナイトのビジョンが窺えるが、このベストセラー本は、ネットフリックスが原作権も購入している。

映画『AIR/エア』の骨組みにあるのは、社長ではなく、一社員の信念。バスケットボール通で、最初にマイケル・ジョーダンとナイキのコラボを思いつき、会社の意向に反して、情熱を貫いたナイキ社員ソニー・ヴァッカロのリーダーシップが主軸となっている。