Aug 11, 2023 column

第35回:誕生から64年の人形「バービー」が、全米大ヒット映画『バービー』となってアメリカ人が熱狂的に支持したワケ

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全米で3週連続興行トップを走る映画『バービー』。すでに先週末、国内で5300.9万ドルを稼ぎ、北米全体で4.59億ドル、世界歴代興行収入ランキングではすでに45番目に君臨し、10.336億ドルを超えるという、記録的大ヒットが続いている。今月8月、ロサンゼルスのソーシャルメディアでは、バービーと、ポップスター、テイラー・スウィフトの金髪女子がアメリカ経済を支えているという話題が炸裂。8月3日から6日間で行われたテイラー・スウィフトの「THE ERAS TOUR」は地元LAファンや観光客を魅了し、ロサンゼルス観光に約1億6000万ドル(日本円で約220億円) をもたらしたとNBCのニュースなどでも大きく報道されている。

災害、猛暑、インフレなど、世界中で不安なニュースが増えるなか、現在、消費者の財布の紐をとくのはエクスペリエンス=体験なのだそうだ。このコラムでは、この映画が今なぜ、アメリカ人の支持を得たのか、手軽に楽しめる映画『バービー』の鑑賞ファッションとともに、このコラムで紹介したい。

エアヘッド(空っぽな)からフェミニストに転身した映画の主人公バービー人形

カリフォルニア州サンタモニカ。猛暑の中、クーラーの効いた夏休みイベント会場に、大勢の女性陣がピンクのドレスに身を包み、いそいそと押し寄せてくる。友達同士や、家族連れ、母と幼い娘などが目立つなか、男性陣もちらほら姿が見える。彼らの目的は、映画とともに、特別開催されている「ワールド・オブ・バービー」という没入型展示イベント展。この会場ではバービーの家をモチーフに、ポップな色合いのソファーやラウンジが用意されたリビングルーム、ビーチや海を想像させるバブルルームなど、全ての空間がインスタグラム受けするバービーの世界が展開される。さらには、バービーのヘアスタイルを可能にしてくれるヘアサロンのブースや、大人向け、夜のバービー・カクテルアワーまで用意されている。チケットは最低で約$34ドル(日本円で約5000円)だが、日程や時間帯によって値段が変わるという仕組み。

「バービー、あなたなら何にだってなれるわ!(You Can Be Anything!)」というキャッチフレーズの前で、参加者が思い思いのポーズでバービーになり切る様子はまさに、バービーファンならずとも楽しくなれそうな明るい世界。もともと、コスプレが大好きなアメリカ人にとって、思い思いのバービーの装いで映画館を訪れる様子は、無邪気そのもの。映画が公開したその日から、映画館にもピンクの服や、バービー、そしてケンのコスプレで映画鑑賞する人が続出。それも家族連れが目立ち、全員コスプレで鑑賞する様子は愛くるしい。

父親や息子はケン,妻はバービー、娘もバービー、義母はピンクのバスローブに身を包んでスパ通いのバービーなどと、マテル社が64年間製造してきた着せ替えバービーの世界は、何でもありなのである。さらに、その「バービー人形」はあちこちでフィーバーし、サンタモニカ・マウンテン・レクリエーション・エリア(国立公園)のソーシャル・メディアでは、アウトドアのパークレンジャー(自然保護官)・バービーが登場。#Me Too以降のステレオタイプを脱却した快活な女性像は、映画のバービーから発信されたウーマンパワーが反映されている。