Jul 20, 2019 column

『高畑勲展』 その後の全てを変えた、日本のアニメーションの軌跡

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圧倒的な展示だった。高畑が影響を受けアニメーション制作者という道を選ぶきっかけとなったフランスの作品『やぶにらみの暴君』(後に改作され『王と鳥』に改題)の説明からはじまり、遺作となった大作『かぐや姫の物語』までの軌跡が凝縮されている。

日本のアニメーションにおける革新者と言われた高畑勲。だが、いったい何が革新であったのか。高畑が示した“革新以後”に何が変わったのか。それを明確に説明するべく、とりわけ『太陽の王子 ホルスの大冒険』、『名作劇場』の『アルプスの少女ハイジ』『母をたずねて三千里』『赤毛のアン』、そして『かぐや姫の物語』の展示と解説にはひときわ大きなウェイトが割かれている。正直、2019年になってここまで大々的な『ホルス』『名作劇場』についての展示が見られることになるとは思わなかった。

企画・制作において記された膨大なメモにはインテリで理論派であった氏の圧倒的な知識、視点、発想、思想、作品コンセプト、手法がびっしりと記されている。『ホルス』で描かれ、後のアニメーションに大きな影響を残すこととなった徹底した生活描写とリアリズムはどのように生み出されていったのか。そもそも実写とは異なるアニメーションにおけるリアリズムとは何か。ナゼその描写とリアリズムが必要であったのか。そのために、どのような制作体制を築いたのか。『ホルス』はそれまでの「こどものための“まんが映画”」を「大人の観客の鑑賞にも堪えられる“映画”」へと進化させた。カメラワークがあり平面芝居とならないアクション、内面に踏み込んだ人間描写、思想性、社会への考え方。『ホルス』はそれほどまでに日本のアニメ史にとって大きな変革を生み出した作品であり、アニメーション監督・高畑勲の出発点だった。こういった展示だと高畑が全ての作品の描写で曲げなかったリアリズムへの考え方が信念や思想とも言えるものであったことが見えてくる。『ホルス』における共同体描写がそうであったように、労働争議に揺れていた当時の制作現場を率いた精神がそうであったように、革命家であったことは高畑の本質であるのかもしれない。

『ホルス』の制作は最初から最後まで困難の連続となった。高畑の考え方はそれほど突出しており、スタッフへの要求もまた高かった。従来の“まんが映画”とは異なるものの希求は、時節柄もあり製作会社と対立することとなった。だが、それが革命であり革新へと繋がった。宮崎駿は80年代のアニメ誌において『ホルス』制作時を「自分の青春そのもの」だと語っていたが、『ホルス』のコーナーに展示されている数々の資料の中にはスタッフによって描かれた落書きなども残されており、そういった断片から高畑や宮崎、大塚康生、小田部羊一など、その後に日本のアニメーションを牽引していく面々の若き日の姿がうかがえる。ドラマで描かれているあの世界だ。ちなみに展示の音声ガイドは『なつぞら』で高畑をモデルとした坂場一久を演じる中川大志が担当しており、ドラマを現実に引き寄せてくれる展示の仕掛けにもなっている。