Oct 29, 2026 column

ロサンゼルスの新聖地 : ルーカス・ミュージアムの魅力 (vol.96)

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空想の翼を広げる美術館

ルーカスとメロディ・ホブソンが出会ったのは2006年。メロディはシカゴを拠点とする世界的な資産運用会社アリエル・インベストメンツの共同CEOで、彼女の名声や影響力は知る人ぞ知る。2人のケミストリーがマッチしたミュージアムのコレクションは、ファンタジーにあふれる作家の作品に溢れ、その中には、人種差別や戦争など、我々の社会的課題を考えさせる絵画も多い。

Mellody Hobson & George Lucas  ©︎Lucas Museum of Narrative Art

「スター・ウォーズ」に出てくる宇宙船に乗り込むような未来的エレベーターで到着するのが上階の展示会場。そこには家族、ヒストリー、シネマ、スポーツ、ラブとそれぞれのカテゴリーがシンプルに示されている。ミュージアムの本を出版したTaschen社の解説では以下の大きな枠で展示をまとめている。


1 . 我々の日常 – Life in Common

最も一般的に私たちが触れるのが日常の物語。母の愛、仕事、遊びとさまざまな日常の側面を切り取った絵画が飾られる中で、歴史は、固定されたものでなく流動的で、アーティストによって、その史実がいかに物語として展開されているかに焦点が当てられている。例えば、N.C.ワイエス(N.C. Wyethはアンドリュー・ワイエスの父)の、1775年にアメリカのワシントン大統領がケンブリッジで旗に敬礼する絵画(1919)や、コロンバスがジェノアの港から遠く海のかなたを見つめる絵画(1917)、20世紀初頭のアメリカのイラストレーターで知られるジョセフ・クリスチャン・ライエンデッカーの「キス・オブ・グローリー」(1902)は、中世のロマンを想像させる絵画。

児童文学の展示では、動物が主人公になったり、秘密の森が現れたりとヒーローがいかにして冒険にいどみ、友情を育むかなど、初期のイラストレーターたちによって、日常からファンタジーへと夢を膨らませる内容が綴られる。ワイエス同様に、このミュージアムでも特別コーナーをもつマックスフィールド・パリッシュの絵画「リラクタント・ドラゴン」(1902)や、アルフォンソ・ミュシャの「お馬鹿者、ハンガリーのお話」(1897)、グレイス・ジョーンズの「妖精のダンス」(1920)、日本でもおなじみのベアトリス・ポターの「ピーター・ラビット」原画(1890~93)やモーリス・センダックの有名な「かいじゅうたちのいるところ」(1963)につながるイラスト、そして近代の黒人イラストレーター、ブライエン・コリエーのイラストまで幅広く展示されている。

さらに、愛と家族もルーカスの物語の上で重要なテーマ。著名な画家ルノワール、ディエゴ・リベラ、ウォーホールなどの大御所の絵画もあれば、あまり知られていないアーティストの絵画もテーマごとに同じコーナーで展示されているのがこのミュージアムの特徴。個人、家族、生活と義務など、未来のクリエイターを育成するべく、さまざまなアートが我々を刺激する。


2.  分かち合った物語 – Shared Stories

ファウンディング・メンバー(創設をサポートするための最初のミュージアムメンバーシップ保持者)が最も楽しみにしていたのが、スター・ウォーズ・イン・モーションというルーカスが想像した「スター・ウォーズ」帝国の創世記のアート展示。「スター・ウォーズ」の世界観を描いた初代ロバート・マッカリーの原画を見つめる来館者の表情は特別。ルーカス・ミュージアムという神殿を訪れて、映画を見た50年前当時の懐かしさに浸りながら、セルフィーに忙しい年配客も大勢いた。

映画は全てのメディアを集結するナラティブ・アート。絵画、イラスト、トポグラフィー、セット、コスチュームデザイン、モデリング、そして音楽ほか、「スター・ウォーズ」が撮影される上で創造されたコラボレート・アート。映画を製作するにあたって関わった脚本家、エディター、デザイナー、モデルメイカー、カメラオペレーター、衣装デザイナーほか、分野別の達人が「スター・ウォーズ」ギャラクシーを作り上げたことが分かるような構成になっている。ノーマン・レイノルズ作のR2-D2や、ジョン・モロ作のC-3POとともに迎えられ、今ではアイコニックとなったトリシャ・ビガー作のダース・ベイダーやジョン・モロ作のサンド・トゥルーパーの頭からつま先までの被り物や衣装も身近に見ることができる展示は貴重。

中でも注目したいのは、映画の中での乗り物が、「スター・ウォーズ」の物語を信じさせるナラティブ・アートの大きな要素の一つとして、ミュージアムの中でも存在感が大きいこと。ラルフ・マッカリー(Ralph McQarrie)の原画では森の中を走り抜けるルーク・スカイウォーカーとインペルアル・スピーダーが描かれ、ジョー・ジョンストン、ローン・ピーターソン(Lorne Peterson)、ポール・ハストン(Paul Huston)、スティーブ・ガウリー(Steve Gawley)他が作り上げたあのミレニアム・ファルコン(1975-77)、レス・ディリーとジョン・スティアーズ作のルーク・スカイウォーカーのランドスピーダー(1976)や、ダグ・チャン(Doug Chiang)の原画からおこされたポッド・レーサーの数々と貴重なアートがスピード感を保ちつつ展示されている。

共有するアートというテーマでは、シネマとは別に、写真や壁画も重要なコーナー。赤狩りとマッカーシズム、移民問題などを考えさせられる壁画。戦争、労働者階級と貧困、そして人種差別など、写真家ドロシア・ラング、ユージン・スミス、そして近年のスティーブ・マッカリーやセバスチャン・サルガドなどのビビッドな写真展示も網羅していて、見応えがある。


3.  架空の世界 – Imagined Worlds

ルーカスがこのミュージアムを作りたいと思った理由の一つには、自らがいかに様々なアーティストから芸術的な感銘を受けたかを次世代に知ってほしいという意図がある。彼の映画の舞台には、アメリカ西部劇、ロマンスと冒険、サイエンスフィクションが背景にある。絵画の背後に秘められたファンタジーに映画を作るうえで感化され、キュレートされた絵画や彫刻、グラフィックアートがルーカスのビジョンに近いのは、ルーカス自身の絵画コレクションも含まれているからだそうだ。なかでも興味深かったのが、フランク・ゼイビヤー・レインデッカーの「The Frapper」(1922)の宝石を身にまとう高貴な女性が蝶々の羽で羽ばたいている絵画や、ジェフリー・キャサリン・ジョーンズの「The Swamp Creature of Jigsaw Puzzle」(1974)、そしてルーカスが最も惹かれたアーティストの一人、フランク・フラゼッタの特別コーナーももうけられ、「A Princess of Mars」(1970)や「Mossman」(1980)など、「スター・ウォーズ」を製作する上での登場人物たちを思い起こさせるグラフィック・ストーリーが体験できる。

そのほか、アメリカンコミックスのコーナーや、日本のアニメーションもなつかしい作品群の劇画が展示されている。辰巳ヨシヒロ「死者は見えず」、細井雄二「仮面ライダー」などの原画から、大友克洋作「AKIRA」の彫刻(Javier Valle作1989)や、手塚治虫への賛辞など、多くの観客を魅了していた。


4  実現したビジョン – Vision’s Realized

ルーカスと妻、メロディ・ホブソンのビジョンを反映し、外側の建物から中の構造まで、全てがテーマの流れでまとめられていて、見学しやすいのも特徴。ルーカスが映画製作中にインスピレーションとして集めたあらゆる絵画、彫刻、そしてメロディの息のかかったあらゆる人種のアーティストにも注目した細かいキュレーションの数々には息を呑む。これだけの作品がロサンゼルスに集められたことだけでも画期的である。

ノーマン・ロックウェルの「The Problem We All Live With」(1964)などのインパクトはもちろん、ジャクソン・ポラックも教えたというアメリカの労働者を描いたトーマス・ハート・ベントンのコーナーや、前述した光と影の天才画家マックスフィールド・パリッシュ、N.C.ワイエス、ジェシー・ウィルコックス・スミスなどの特別コーナーも嬉しい限り。そして疲れた人には、展示ウィングとは別に図書館のウィングも用意され、1日中ゆっくり過ごせる構造になっている。


ミュージアムは火曜日、祝日が定休日。大人$25、65歳以上のシニア$21、17歳以下は無料。オープニングからの動員数は現在、公表されていないが、約1ヶ月先であれば予約可能。常設のカフェテリアとは別に、上階のレストランの方だけは予約が2ヶ月先となっている。さらに、チケットがなくても、ヨーダの銅像などが飾られている彫刻の庭は開館中は無料で訪れることができる。

ちなみに、来年5月28日に公開予定の待望の新作映画『スター・ウォーズ/スターファイター』まで、「スター・ウォーズ」フィーバーが山盛り。2月14日の米スーパーボウルでCGアニメ「Star Wars Funday Football」の放映が決定。世界配信のディズニー+でも視聴ができる。2月19日はTLCマンチャイニーズシアターにてオリジナル『スター・ウォーズ』の記念上映会。4月1日からの4日間はロサンゼルス・コンベンションセンターにて、スター・ウォーズ・セレブレーションの大イベント開催と、ファンにとっては忙しい年になりそうだ。

文 / 宮国訪香子


施設情報
Lucas Museum of Narrative Art (ルーカス・ミュージアム・オブ・ナラティブ・アート)

映画監督のジョージ・ルーカスと、彼の妻で実業家のメロディ・ホブソンによって設立された美術館で、2026年9月22日に開館。この美術館では、絵画、写真、彫刻、イラスト、コミック、パフォーマンス、ビデオなど、視覚的なストーリーテリングを幅広く展示する。

© 2026 WBEI and Legendary

公式サイト lucasmuseum

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。