Nov 17, 2023 column

恋と航海は戻れない『クレイジークルーズ』で再確認する坂元裕二脚本術

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吉沢亮と宮﨑あおいがダブル主演を務める、Netflix映画『クレイジークルーズ』が、11月16日に配信となった。脚本を担当したのは、言わずと知れたヒットメーカーである坂元裕二。第76回カンヌ国際映画祭において脚本賞を受賞した『怪物』に続いての坂元作品である本作は、自身初のNetflix作品となる。大いに期待される本作の魅力を過去の坂元作品を振り返りながら紐解いていきたい。

変幻自在の[文体]

『マリッジ・ストーリー』(2019)のノア・バームバック、『ザ・キラー』(2023)のデヴィッド・フィンチャー、「ゲーム・オブ・スローンズ」(2011〜19)脚本家コンビのデイヴィッド・ベニオフとD・B・ワイス‥‥。莫大な資本力を武器に、Netflixは優秀なクリエイターとの独占契約を次々に締結している。熾烈を極める動画配信プラットフォーム競争を勝ち抜くために、数字を稼げる監督、脚本家、ショーランナーを取り込むことは、今や至上命題だ。

この流れは日本も例外ではない。6月29日には、脚本家の坂元裕二がNetflixと5年契約を結んだことが発表された。坂元裕二といえば23歳の若さで書いた「東京ラブストーリー」(1991)を皮切りに、「Mother」(2010)、「最高の離婚」(2013)、「カルテット」(2017)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(2021)と、30年以上にわたって話題作を作り続けてきた、言わずと知れたヒットメイカー。近年では、菅田将暉&有村架純W主演の映画『花束みたいな恋をした』(2021)が興行収入38.1億円の大ヒット。是枝裕和監督とタッグを組んだ『怪物』(2023)では、第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した。

DDD AOYAMA CROSS THEATERで上演された「またここか」(2018)など、演劇にも意欲的に挑戦。TVドラマ、映画、そして舞台と、あらゆる分野でその才能を遺憾無く発揮している。そしてNetflix企画・製作のもと、坂元裕二によるオリジナル・ストーリー『クレイジークルーズ』がいよいよ配信開始された。

本作の舞台となるのは、豪華客船MSCべリッシマ。医療界のゴッドファーザー久留間宗平(長谷川初範)と道彦(安田顕)・美咲(高岡早紀)の息子夫婦、映画プロデューサーの保里川(菊地凛子)と若手俳優の井吹(永山絢斗)、龍輝(泉澤祐希)と汐里(蒔田彩珠)の若いカップルなど4860人の乗客が乗船して、42日間に及ぶエーゲ海ツアーに出航しようとしていた。

新人船長の矢淵(吉田羊)にとってはこれが初航海。そして彼女から“避雷針”と呼ばれているバトラーの冲方(吉沢亮)は、乗客からの理不尽なクレームに奔走している。そこに現れた、千弦(宮﨑あおい)という女性。彼女は、お互いの恋人が浮気しようとしていることを告げる。結婚を申し込むつもりだった冲方はショックを受けるが、船は出航してしまい、もう日本には戻れない。そんな矢先、客船のプールで殺人事件が発生する‥‥。

青春群像劇「同・級・生」(1989)、冒険アクション「西遊記」(2006)、社会派サスペンス「わたしたちの教科書」 (2007)、ヒューマンドラマ「それでも、生きてゆく」(2011)、直球のラブストーリー「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(2016)。坂元裕二が手がけるジャンルは、多岐にわたっている。夏川結衣を主演に迎えたドラマ「あなたの隣に誰かいる」(2003)にいたっては、坂元本人がジャンルレスと認めているとおり、ホームドラマ要素あり、ホラー要素あり、ラブストーリー要素ありのゴッタ煮ドラマだった。

しかも彼は、作品によってタッチを自由自在に変えてしまう。三谷幸喜、北川悦吏子、宮藤官九郎、野木亜紀子といった脚本家たちが、明確な[文体]を持っているのに対して、彼はテーマに最も適切なトンマナを選択できる懐の広さがあるのだ。そして今作『クレイジークルーズ』は、ミステリーの要素をふんだんに盛り込んだロマンティック・コメディに仕立てられている。