Jun 13, 2019 column

トニー賞授賞式の宴が終わって、ブロードウェイhere and now

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6月9日CBSで夜8時から放送された第73回トニー賞授賞式は、例年どおり、日の出をモチーフにした美しいラジオシティー・ミュージックホールで行われ、進行役ジェームズ・コーデンが 映画やテレビも良いけれど、何といっても生の舞台は違うよ〜とユーモアいっぱいの歌でスタートを切った。トニー賞演劇主演男優賞も受賞しており、現在はテレビの『ザ・レイト・レイト・ショー』のホストも務める多才なジェームズは、ダンサーたちに囲まれながら6000人近い観客の大歓声に包まれた。

ミュージカル助演男優賞アンドレ・デ・シールズのスピーチ

それから、いくつかの部門の受賞が行われる合い間に、『エイント・トゥー・プラウド』と『トッツィー』のナンバーが披露された。そして、その後ミュージカル助演男優賞に輝いたのは『ハデスタウン』でヘルメス役を担ったアンドレ・デ・シールズだ。50年のキャリアを持ち数々の賞を受けてきた彼も、トニー賞は初めて。

ミュージカル助演男優賞は『ハデスタウン』のアンドレ・デ・シールズ 
photo by Matthew Murphy 2019

メリーランド州ボルティモアの貧困街で11人兄弟の9番目として生まれた彼が25歳になった時、周りには3人の兄弟しか生き残っていなかった。厳しい生活の中、若い頃に歌手を目指していた両親や周囲の夢を引き継いでニューヨークに出てきた過去を持つアンドレ・デ・シールズは、受賞スピーチで言っている。「ボルティモアのみんな、聴いているかい? 僕は約束を守った。ニューヨークで「彼はボルティモア出身なんだ!」と誇ってもらえる人になったよ」 。

小さい頃から寡黙で哲学的に物事を考える彼は、続いてこんなふうにスピーチを締めた。「73歳になる僕がこんなに長く続けられた3つの方法を、この機会に皆さんとシェアしたい。一つ、自分を見た時、目を輝かしてくれる友達の中に身を置くこと。二つ、本当にやりたいことに辿り着く一番の方法は、時間のかかる道だと知ること。三つ、辿り着いた山の頂は、次の山の麓。だから常に登り続けること」。

ミュージカル主演女優賞のトロフィーは、ステファニー・J・ブロックの手に渡る。彼女が演じたのは、「ポップスの女神」として君臨する大御所シェール。その生涯を描いたミュージカル『ザ・シェール・ショー』で現在46歳のステファニーは、成熟したシェールを見事に演じている。シェールの特徴のある太い声を出すのは難しい。 白くするために歯に貼るシートも使ったという話もある。トニー賞ノミネートが3度目というベテランの彼女だからこそ、その声をマスター出来たのだろう。 

ミュージカル主演女優賞は『ザ・シェール・ショー』のステファニー・J・ブロック
photo by Joan Marcus

ミュージカル助演女優賞は、車椅子の俳優としてトニー賞受賞が初めてとなるアリ・シュトレーカーが取った。2歳の時交通事故に遭遇し、胸から下が麻痺していたにも関わらず、小学4年生の時、学校で催された劇「オズの魔法使い」の主人公ドロシーを演じた。そこで輝く娘の姿を見た両親はその才能に驚き、身体障害者としてこの道に進ませるためにはどうしたらいいかと考えたと言う。彼女は『オクラホマ!』(のちほど紹介)で、男性にノーと言えず、キスをされるとキスを返してしまうキャラを見事に演じている。