Feb 18, 2018

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若者たちのリアル、普遍的な“愛”。岡崎京子作品が時代を超えて愛され続ける理由

今を一緒に生きているかのような登場人物、生きる困難さと不平等さと“愛”

 

もちろん、彼女の代表作は、前述の2作だけではない。『pink』(89)では、OLとして働きながら、自分の好きなものを手に入れるため、そして愛するワニを飼うためにホテトル嬢を続けている主人公のユミちゃんが、継母の愛人・ハルヲと恋をし、現実主義的で子どもながらしっかりとしている義理の妹・ケイコと共に生活を重ねていく。この作品では、赤裸々でリアルなセックスを描きつつ、読者に愛とお金について問いかける。それは、著者自身がつけたこの作品のキャッチコピー“愛と資本主義”そのもの。果たして本当の愛とは何なのか、そして、生きるため、自由のために手に入れるお金の価値とは。当時17才だった私は、衝撃のラストを読んだ時、しばらく本を閉じることができなかった。でも、そこに現実をしっかりと感じたことを覚えている。

そして、バラバラ殺人事件の被害者“チワワちゃん”を友人の証言から描いていく短編『チワワちゃん』(96)。マスコミでは“品行方正”と報じられていた彼女の素顔は、その言葉とは程遠いもの。でも彼女は彼女なりに、夢を持ち、不器用に生きていた。彼女の生き方は決して褒められるものではないが、誰もが“チワワちゃん”になる可能性だってあったのだ。

過激な性描写と暴力と共に描かれる『私は貴兄のオモチャなの』(95)も、主人公の心理に寄り添うと、大好きな人のためになんでもしてあげたいという純粋な“愛”から生まれた、どうしようもない感情が見えてくる。まだ自由に恋愛を、相手を思うことを操ることができない若者の姿を描いた物語だからこそ、多くの人が共感し、“もう一人の私の物語”として支持されたのかもしれない。

すべての作品を通して、それぞれの登場人物がとてもスタイリッシュであることも魅力的だった。人気のブランドを身にまとい、美しく、個性的かつ奔放なキャラクターは、多くの女性の憧れであった。さらに、当時流行していた映画や音楽、流行語、テレビなどのカルチャーが作品に反映されているからこそ、マンガのキャラクターという枠を越え、今を一緒に生きているかのように感じられたのかもしれない。まるで、その時に一緒にいた友達のように、10代の頃に岡崎京子作品を読んだ30代、40代の女性は今も、大事に胸の中で作品を愛し続けている。当時少女だった女性が大人になったから今だからこそ、彼女の作品が実写化されたり、再評価されたりしているのかもしれない。だって、10代の頃に受けた衝撃は、一生の宝物なのだから。

もちろん今の10代、20代にも、彼女の世界はたっぷりと響くはずだ。ケータイも、インターネットも存在しない、90年代を切り取ったマンガが、どうして愛され続けるのか。きっとそれは、人間の普遍的な部分、人間の本能である“愛”の根本を描いているからだろう。生きていく難しさ、裏切り、人生に与えられる不平等さ、相手を感じるセックスと愛。これらはいつの時代も変わらない。だからこそ、時代が変わった今も、多くの人から支持され続けているのかもしれない。

文/吉田可奈