May 24, 2018 interview

声優・矢尾一樹が赤裸々に語る 「やってやるぜ!」とはいかなかった涙の主演デビュー作

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矢尾

そうしたら、隣の席に座っていたおじさんが慰めてくれたんですよ。「こんなのは慣れだから、場数を踏めば大丈夫だよ」って。優しいおじさんだなって、よくよく聞いてみると、何と『巨人の星』(1968年)の伴宙太だったという。

平野

八奈見乗児さん!

矢尾

伴宙太の声で「星!」って言ってくださいよってお願いしたら本当にやってくれて、うわ~、本物だよって(笑)。

古川

……そんなことお願いしたんだ(笑)。

平野

なんてお優しい!

矢尾

だから、あのとき八奈見さんと戸田さんがいなかったら、俺はこの業界にいなかったですね。本当にありがたかったですよ。二人のおかげで明日の収録もがんばろうって思えました。……やっぱり何もできませんでしたけど(笑)。

平野

その、声優デビューの現場で、印象に残っていることってある?

矢尾

先輩方の演技が凄まじかったですね。見た目はその辺にいる普通のおじさんなのに、まるで何事もなかったかのように見事な演技を次々と繰り出していくんです。違う現場の話になりますけど、文庫本読みながら収録に臨むような人もいましたからね。

古川

いたねぇ(笑)。本に集中しているように見えて、ちゃんと自分の出番になるとすっとマイクの前に移動するんだよね。

矢尾

今、自分がその人たちの年齢になってますけど、あらためて「あんなの絶対無理」って思いますよ(笑)。

平野

そうした諸先輩方、スーパーレジェンド声優の中で、今、矢尾さんがすごいなって思っている人はどなた?

矢尾

2年前にお亡くなりになった肝付兼太さん(『ドラえもん』スネ夫役など)ですね。実は今、肝付さんの演じておられた『それいけ!アンパンマン』のホラーマン役を引き継がせていただいているんですが、やればやるほど、その偉大さに打ちのめされそうになります。

平野

肝付さんのお芝居は、どういうところが偉大だと思う?

矢尾

なにより自然ですよね。あのほんわかとした雰囲気が出せなくて苦労しています。気合いを入れれば入れるほどカチっとしてしまうんですよね……。

古川

僕は肝付さんの芝居を「引き算の演技」だと思っている。お芝居の余分な要素を全部落としていくと、ああいう本当の意味で自然な演技になるんだよね……と口で言うのは簡単なんだけど、それを実現するのは至難。

矢尾

本当にどうすれば肝付さんに追いつけるんだろう。今は、それを考えながら追いかけ続けています。58歳になって、いまだ挑戦の日々ですよ。

構成・文 / 山下達也 撮影 / 田里弐裸衣

プロフィール

矢尾一樹(やおかずき)

6月17日生まれ。マックミック所属 特技は剣道二段、剣武道初段。 主な出演作品:【ワンピース】フランキー【超獣機神ダンクーガ】藤原忍【機動戦士ガンダムΖΖ】ジュドー・アーシタ 【燃える!お兄さん】国宝憲一【VS騎士ラムネ&40炎】ダ・サイダー など他多数のアニメ作品に出演。

出演舞台:さくら公演企画第四回公演(5月26日27日) 永島さくら舞台生活30周年記念公演 「華うたげ」~富貴楼 お倉~ 公式サイト http://nigiwaiza.yafjp.org/perform/archives/15965

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古川登志夫(ふるかわとしお)

7月16日生まれ、栃木県出身。青二プロダクション所属。1970年代から活躍を続け、クールな二枚目から三枚目まで幅広い役を演じこなす。出演している主なアニメーション作品には、TVシリーズ「機動戦士ガンダム」(カイ・シデン役 1979~80年 テレビ朝日)、映画・TVシリーズ「うる星やつら」(諸星あたる役 1981~86年 フジテレビ)、映画・TV「ドラゴンボール」シリーズ(ピッコロ役 1986~ フジテレビ)、映画・OVA・TVシリーズ「機動警察パトレイバー」(篠原遊馬役 1989~90年 日本テレビ)、映画・TV「ONE PIECE」(ポートガス・D・エース役 1999年~)など多数ある。

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平野文(ひらのふみ)

1955年東京生まれ。子役から深夜放送『走れ!歌謡曲』のDJを経て、’82年テレビアニメ『うる星やつら』のラム役で声優デビュー。アニメや洋画の吹き替え、テレビ『平成教育委員会』の出題ナレーションやリポーター、ドキュメンタリー番組のナレーション等幅広く活躍。’89年築地魚河岸三代目の小川貢一と見合い結婚。著書『お見合い相手は魚河岸のプリンス』はドラマ『魚河岸のプリンセス』(NHK)の原作にも。