Jul 31, 2017 interview

SFというジャンルだけでは括れないユニークな作品 映画『スターシップ9』アテム・クライチェ監督ロング・インタビュー

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『スターシップ9』は“すごく効率的に作った”映画

 

──スペイン映画界の景気というのはどんな塩梅なんですか。

どこと比較するかによるね(笑)。スペインの映画産業はどちらかというと小さい方だと思う。年間120~140本の作品が製作されているけれど、監督デビューする機会がなかなかない。日本でもなかなか難しいと聞いている。しかもオリジナルで映画を作ることが本当に難しい、と。アメリカでもコミックを原作にした作品が多いし、成功が約束されるような担保を持った作品が多く作られる傾向はどこも変わらないみたいだね。スペインの場合は、市場こそ小さいかもしれないけど、オリジナルの物語で映画を作る余地がまだ残されているんだ。ストーリーテラーとしては、オリジナルで作ることができる方がやっぱり望ましい。

──中規模クラスの映画というのは、具体的にはどれほどの製作費だったのでしょう。

中規模の予算というものは過去10年間で変わってきているところもあるけど、たとえば10年前だったら350~400万ユーロ(1ユーロ=125円換算で4億4千万円~5億円)で、現在では200万ユーロ(同換算で2億5千万円)くらいかな。『スターシップ9』は300万ユーロ(同換算で3億7千5百万円)の製作費で作ったんだ。

──その予算以上の感触の作品に仕上がっていると思います。奇妙な表現に聞こえるかもしれませんが、やっぱり経済的な映画だと思います。

そう。すごく効率的に作った(笑)。僕には作家と映画監督というふたつの側面がある。最初に映画会社と話し合うときはだいたい予算規模の話になりがちなんだが、それよりもどれだけの撮影期間がもらえて、どういう俳優が使えて、本当に映画化されるという保証があるのかという客観的な情報が欲しいんだ。今回は結局、5週間半で撮影を終えなければならなかった。

 

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監督が影響を受けた映画について話を聞くと…

 

──ご自身の性格をどう分析されますか。リアリストなのか、ロマンティストなのか、楽観主義者なのか、厭世肌なのか。

妻に電話で訊いたもらった方が早いね(笑)。どうなんだろう、ちょっとずつそれらの要素を持っているのかなとは思うよ。個人的な性格は別にして、確かなのは仕事に関して非常に忍耐強いということだね。これをしたいと思ったら、絶対に諦めない。頑固なんだ。そもそも映画製作なんて一回でうまくいくことなんてあり得ない。25回失敗してやっと1回うまくいくようなことがほとんどじゃないかな。

──既にいろんなインタビュアーに訊かれたと思いますけど、どういう映画に影響を受けて、どういう作家に魅了されてきたのでしょう。

僕の場合、どの作品、どのジャンル、どのフィルムメーカーに影響を受けたということがほとんどないんだ。観客としては、どの映画も好き。この25年間、毎週のように映画館に通っている。その折々にクリエイターとしての視点からヒントを得ることはあるよ。ただ、『月に囚われた男』(2009/ダンカン・ジョーンズ監督)や『メッセージ』(2016/ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)、『ブレードランナー』(1982/リドリー・スコット監督)といったSF作品が好きだといっても、その影響下で『スターシップ9』が作られたかというと、やっぱりそうではない。無意識の部分ではあるかもしれない。でも、好きな映画を意識して作ったことはないんだ。さっきも言ったけど、僕の場合、ひとつのジャンルを暗号のように入口で使うことはあっても、そのコードに従って全体を作ることはない。そういう影響みたいなものがないようにしようと意識しているといってもいい。強く離れようと意識することで、逆に潜在的に反映してしまっている部分はあるのかもしれないけど。

──そういう答えをもらったインタビュアーたちはガッカリしていませんでしたか。

どうだったかな。ガッカリしていなかったことを祈るよ(笑)。

 

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──日本映画もよく見ているんですか。

僕が知っているのは、まず古典的な黒澤明監督の作品。『羅生門』(1950)とか『七人の侍』(1954)とか。あとは北野武監督の作品かな。だいたいスペインでは日本の映画があまり公開されないんだ。たまに公開されるときにできるだけ見るようにしているけれど。

──日本の印象は?

日本の料理は何を食べても美味しいね(笑)。驚いたよ。築地にも行ったんだ。スペインでは寿司くらいしか知られていないけど、どれもこれも皆、美味しい(笑)。