Apr 27, 2017 interview

三池崇史監督はなぜ無茶な映画ばかり撮り続けるのか?『無限の住人』に見る“崖っぷちの美学”

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運命的な役に出逢ってしまうのが本当の役者

 

──豪華なキャストですが、三池監督がいい意味で裏切られた俳優はいますか?

今回の顔ぶれでいえば、やっぱり市川海老蔵でしょう。裏切られたわけじゃないけど、こちらの想像以上にこの人は進化するんだなぁと。『一命』(11年)、『喰女-クイメ-』(14年)と2本映画を撮って、歌舞伎もやって、やっているときだけのお付き合いだけど、毎回すごい勢いで進化する。子どもの頃から歌舞伎の世界にいると、だいたいそれが染み付いて味みたいなものになって、変化しないものなんですよ。そういう人が多い。でも、彼は200歳くらい歌舞伎やってきたんじゃないか、もしくはほんの短期間しかやってないんじゃないのかと思わせる。

 

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──『喰女-クイメ-』のときに海老蔵さんを取材しましたが、歌舞伎の世界に新しいものを取り入れることに貪欲な印象を受けました。

彼は近々、市川團十郎を襲名すると思うんですが、團十郎を襲名するとその人の運命は急変すると言われているんです。長生きしたのは先代の團十郎さんくらいで、初代は舞台で刺されている。本人もそのことはよく知っているわけです。それでも継がなくちゃけない。彼は姓名判断にも詳しい。どうすれば市川團十郎という呪縛から逃れられるか懸命に考えている。彼は探究心が旺盛で、吸収力がすごいですよ。吸収していって、それが固まっていく状態が伝統芸能になっていくわけです。でもね、彼は本当の意味での役者で、運命的なことにどんどん出逢っていく。今回、彼が閑馬役(万次と同じく死ねない男)でしゃべっている台詞は、今の海老蔵さんの心境と重なるものでしょう。それは意図的に用意された台詞ではなく、そういう台詞を口にする役に出逢ってしまった。なかなか、そういう人はいませんよ。それに楽しいじゃないですか。木村拓哉と市川海老蔵がガチンコ勝負したら、どんなヒドいことになるのかなと思っていたら、予想以上にヒドいことになった(笑)。沙村さんの原作あってのキャラとあのシーンですが、そういうものに出逢ってしまうことに運命的なものを感じさせますよ。

──クライマックスで、万次は300人を相手に死闘を繰り広げることに。これまでの作品以上にハードな撮影だったのではないでしょうか?

時代劇は仕掛けとセッティングに時間が掛かるので、地球とうまく付き合っていかないといけないんです。これがセットで撮影していたら、死人が出たと思います(笑)。24時間ぶっ通しで撮り続けるわけですから。でも時代劇は自然の中で、農業をやっているような感覚なんです。太陽が昇らないと始まらないし、日が沈めばもうおしまい。また明日、晴れるのを待つべと。その代わり、朝は太陽が出る前に出発して、現地で照明のセッティングに時間が掛かるから30分から1時間ぐらい待っているんです。上がってきた太陽を眺めながら、「斜光がこんな角度で入ってきたな。昨日より強いな」とか感じる。それで照明を微妙に調整していくんです。

──クライマックスシーンは、2週間以上かけて撮影したと聞いています。

だから300人斬りのシーンは、じっと観ていると立ち回り中に日が変わっているのが分かりますよ(笑)。2週間にわたって、朝・昼・晩と撮影して、1日が終わったら、翌日また朝・昼・晩と撮影を繰り返して。まぁ、日が変わっていることを観ている人が気にするような映画じゃダメですけどね。だから、時代劇の撮影は健康には悪くない(笑)。それが夜も朝もと撮り続けると不健康になってしまう。1日暴れ回っていたら、どんなに強靭な肉体の持ち主でも8〜10時間が限界でしょうし、毎日やっているとモチベーションも保てない。西部劇の『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07年)は山形で撮ったんですが、地元の人たちが「あんなところでは無理だ」といっていたギリギリな場所だったんです。雪が降って、やっぱり大変でしたけど。プロデューサーは気が気じゃないんでしょうが、現場の僕らは楽しい。今回は久しぶりに京都で時代劇をやれて、すごく楽しめる現場でしたよ(笑)。

 

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