レジェンド声優 古川登志夫 & 平野文
arranged by レジェンド声優プロジェクト
一世を風靡したアニメ「うる星やつら」の主人公、あたるとラムの声を演じた、レジェンド声優の古川登志夫さん、平野文さんがホスト役を務めるレジェンド声優インタビュー。これまで数多くのレジェンド声優の方々に、ご自身が演じられたキャラクターの話や声の演技について、様々なお話を伺ってきました。今回はその振返りとして、過去にインタビューしてきた方々の各種エピソードや、今後お話を聞いてみたいレジェンド声優やレジェンドクリエイターについてお二人に語って頂きました。
古川登志夫が一番影響を受けた先輩、レジェンド声優「富山敬」
- 平野文: (以下、平野)
-
これまでたくさんのレジェンド声優をインタビューしてきましたが、登志夫さんが一番影響を受けた方は、どなただったんですか?
- 古川登志夫: (以下、古川)
-
そうですねぇ……インタビューはできませんでしたが、あえて一人だけあげるとすると、一番影響を受けたのは富山敬さん。あの人の演技を見て『人格等身大演技』という言葉を自分で考えついたんだけど、「人格と演技力は等身大である」、演技がうまくなりたかったら人格を磨け、人格がすべて演技に反映される、と。
- 平野:
-
レジェンド声優として、お話をうかがいたかったですよね……。
- 古川:
-
富山敬さんに、あこがれて、あこがれて。着ていた服装までも真似して、まるで追っかけですよね。今でも富山敬さんが着ていたような、白の襟のシャツにVネックのセーターを愛用しています(笑)。
- 平野:
-
確かに登志夫さんの服には、そんな印象も(笑)。
- 古川:
-
富山敬さんの軽妙なしゃべりに、本当にあこがれていたからね。
- 平野:
-
ふだんの佇まいも、”たおやか”な方でした。無駄なものを一切まとってないというか。
- 古川:
-
後輩にプレッシャーをかけないし、本当に同期生のような感じで、しゃべりかけてくださって。
- 平野:
-
当時の登志夫さんの中では、ファッションはそうでしたけど、声優として富山敬さんに近づくために、何かしてらしたことは?
- 古川:
-
演技を全部盗もうとしましたね!富山敬さんの軽妙なしゃべりを真似しようと。演技は富山敬さんで、ナレーションで影響を受けたのは、井上真樹夫さんです。
ナレーションの影響を受けたレジェンド声優「井上真樹夫」。古川登志夫は影武者だった!?
- 平野:
-
井上真樹夫さんがゲストの時は、登志夫さんが代役をしていたという驚きのエピソードもありました。真樹夫さんは、その事実を、まったく知らなかったという(笑)。
- 古川:
-
テレビのバラエティ番組で、深夜に仮のナレーションの声を僕が入れて、それで映像を作るんです。テレビのオンエアーではすべて真樹夫さんの声に差し替えられるという……影武者のようなことをしていた(笑)。
- 平野:
-
真樹夫さんには、どんな特徴があるの?
- 古川:
-
ナレーションに独特のリズム感がある。聞いていて心地よい。軽妙に、あの早さで語るのは、真樹夫さんがマックス。マックスを学べば、それより下、ミニマムまでの段階は全てできると思っていた。ナレーションなら「あのマックスを学べ!」ということです。
- 平野:
-
富山敬さんはセリフの方で、ナレーションは井上真樹夫さんに似せようとしていた? 両方ともはなかったんですね。
- 古川:
-
当時の僕のマネージャーさんが「アニメの現場で様子を見よう。次はナレーションの現場で様子を見よう」といったように、一通りやらせてくれた時期だったんですね。適性を探るというか…。
- 平野:
-
アニメだけでなく、洋画の吹き替え、ナレーションもオールマイティにこなす登志夫さんは、セリフは富山敬さん、ナレーションは井上真樹夫さんから、学んだんですね。
影武者エピソードなども出てくる、井上真樹夫さんの過去インタビュー記事はこちら
ワザ師、テクニシャンのレジェンド声優「杉山佳寿子」
- 平野:
-
「うる星やつら」(1981年)で4年半、ずっーと3人一緒だったカコさん(杉山佳寿子さん)にも来ていただきました。
- 古川:
-
最初お会いした時は、本当に声優として色々教えてもらいました。カコさんは、僕のデビュー作でも相方だったし、声優業界では少し先輩でしたが、同期生のような感じ。
- 平野:
-
リカちゃんの声も29年間なさって、それは、それは、すばらしかったけど。今もハイジの声がCMで流れるたびに、カコさんの現在のリアルな声で、ハイジの声がでるっていうのが、本当に声優の”凄み”を見せつけてくださっている方です。
- 古川:
-
今でもカコさんが、CMのハイジの声を全部新録しているエピソードもありましたね。
- 平野:
-
ハイジのCMが流れるたびに嬉しくなる!カコさんの演じる役は、「Gu-Guガンモ」(1984年)のガンモなど、一癖ある役が多いですよね。
- 古川:
-
ワザ師ですよね!本当に表現力、テクニックがある。
- 平野:
-
テクニックに、プラスしてセンスもあって。うる星やつらの「テンちゃん」役で、はじめて声を出したときに、音響監督さんにニッコリ笑って「こんな感じで良いかしら?」っておっしゃった一言が忘れられない。10持っている力を8ぐらい出して10に見せてて、まだまだ演技の引き出しがあるからこそ言える言葉。芝居にはこの“余裕”が必要で、8割の力でこれができないとダメなんだと学ばされました。音響監督さんから何を言われても、すぐに対応できるテクニックがある。
- 古川:
-
本当に多様な表現力をもった方ですよね。正に技術職人!「うまい人だなぁ」と思いました。
ハイジのCMエピソードなども出てくる、杉山佳寿子さんの過去インタビュー記事はこちら
声優という文化ができる前の”役者”スーパープレミアムレジェンド声優「柴田秀勝」
- 平野:
-
柴田秀勝さんがいらしてくださった時は、豪快なエピソードが盛りだくさんでした。学校の先輩後輩でもあるんですよね?
- 古川:
-
日芸の演劇学科の先輩、青二プロダクションでも先輩でもあるし、業界でも大先輩!声優を始めた頃は、大御所過ぎて柴田さんとはスタジオで口もきけなかった(笑)。今は、家に呼ばれて一緒に食事しています。
- 平野:
-
あの時代の役者さんが体験すべきことを全部なされていた。テレビ映画、ワイドショーの生コマーシャル、舞台もやられていて。
- 古川:
-
柴田さんはまさにオールマイティで、役者という立ち位置で、声優もやられていたからね。
- 平野:
-
だからこそ声優をなさると、役者としての経験値が、声優として全てセリフにのっていた。だから”すごい”……重鎮という声になる。
- 古川:
-
実はこんな話があって……仕事も充実してて、バンドも劇団もやって、ものすごく忙しかった頃、柴田さんに事務所でばったり会ったんです。「お前さん、忙しいんだってね」と声をかけてくれてたんですよ。褒めてくださるのかと思っていたら「かわいそうになぁ、単価安いのに忙しいばっかりで。」と言われて……さすが「大御所」だって思いました(笑)。
- 平野:
-
大御所ですね(笑)。
豪快エピソードなどが満載の柴田秀勝さんの過去インタビュー記事はこちら