Feb 24, 2017 interview

水川あさみ主演であの『東京カレンダー』の炎上リア充女子を映像化!タナダユキ監督に制作の裏側を聞いた

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地上波でやったら炎上するかも

 

──綾はブランドにステイタスを感じる女性ですが、後半になるに従って、その原作的な生き方を相対化するというか、チクリと批評するような内容が際立ってきますよね。

黒沢さんの脚本は、一見キツイことを言っているような人でも、言葉をちゃんと拾ってもらうと、その言葉に至るまでのその人の生き方がちゃんと垣間見えます。もし偏っているように思える人物がいたとしても、別の誰かが違う角度からの見方をしていたり。“ひとりの女が東京で生きていくことはいいことばかりじゃない、でもその現実を受け入れて生きていく綾はたくましい女じゃないか“という視点を、大切にしたいと思いました。単なる批評じゃなく、根底に愛情を持って批評する、という思いで撮りました。

──綾の生き方を肯定しますか。

全肯定はしないし、かといって全否定もできない。自分はああはなれないですけれど、他人の価値観を自分の価値観にすり替えながら生きていける綾の生命力には感心します。私はやっぱり疑ってしまいますもん、これがいいって言われているけれど、誰が決めたの? って。例えば、今年の流行色がピンクだとして、それってどこかの団体が決めたことに合わせてファッション業界が動いているだけにもかかわらず、綾は気にせず、“ピンクが流行っているから抜け感を出しながら取り入れたの”みたいに迷いなく突き進める人なんですよ。こんなふうに自分がよければ人生楽しいよなあと思います(笑)。それに、考えてみたら、私は綾と同じく地方から東京に出て来たので、綾のように若い頃から親に頼らず自立していることは普通にえらいと思います。親との関係も悪くないし、そういうとこは人としてちゃんとしているから全否定できないものがありますね。

──タナダさんのこれまでつくってこられた映画は、綾みたいな記号的な女性ではなく、ちょっと異端な生き方を貫いていく女性が多い気がします。

ええ、だから今回は逆に新鮮というか。だって、“ジョエル・ロブションに30までに行けたらいい女”なんてことを知らなかったですもん。そんな村外れに生きてきた人間によく監督をやらせようと思ったなって(笑)。

──綾は、うらやましがられたい、一番になりたいと思っていますが、そういうことは共感しますか?

もし監督業をうらやましがられても「何にもいいことないよ?」と返すでしょうしねぇ。キラキラとは無縁な仕事ですし(笑)。映画はつくり終わったら観てくれる方のものになるので、何をもって一番なのか、実のところ見えづらい。だから一番などには執着心は持たないよう律してきましたが(笑)律する時点で意識してるってことですしね(笑)。褒められたら嬉しいし、見当違いな批判をされたらムッともします。作る以上はたくさんのひとに観てほしい気持ちはあるから、そう考えると、一番には共感するかもしれない(笑)。あとは、嫉妬されるのはすごく煩わしいけれど、こういう仕事をするならば、嫉妬はするものではなく、されなければいけないものだとは思っています。

──消費文化に乗っかって生きる女の子のドラマは地上波でも受けそうですが。

この作品を地上波でやったら大変かもしれないですね。8話の、子供をつくることへのキャリア女性の独白なんかは、しっかりと言葉の意味、ドラマ全体を捉えられる人でなければ、変な誤解を招きそうですし。あくまで、ある角度からの視点を提示しているだけであって、その発言をしている人が絶対に正しいとは描いていない。でも絶対に全てが間違いだとも描いてはいない。作りながら、全方向に喧嘩売ってないかなこれ、大丈夫かなと思うこともありました(笑)。正しい、間違いは明確にしていないけれど、曖昧さは排除しているので誤解されかねないですが、でも、何かを論じる、考えるきっかけにもしもなるなら、意義深いことだなと。地上波でもやれたらいいですね。このままで。

──確かに、今の地上波は白黒つけず曖昧な論調になりがちです。

R 指定がつくような激しいベッドシーンや、凄惨な殺人事件がある作品ではないにもかかわらず、こんなに攻めた話がつくれるんだと思いました。配信という、自由さのある枠と、自由にやらせてくれたプロデューサーにも感謝です。とくに7話以降から、こここそ私がこの作品をやる意味があったと思っています。ひとりの女性が生きていくうえで必ず出会ってしまう葛藤、たとえば結婚するしないとか、出産するしないとか、そういうことをきちんと描けました。6話くらいまでの綾の失敗なんて、可愛らしいもんです(笑)。

──アイドルを観て毒づいている女性(池谷のぶえ)も面白いですよね。

毒づきながらもずっと観ているってところが重要なんですよね(笑)。