Mar 16, 2024 interview

イ・ソルヒ監督が語る 人に対するとめどない好奇心から生まれた映画『ビニールハウス』

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人に対するとめどない好奇心から生まれた映画

池ノ辺 監督は人が好きなんですね。

ソルヒ そうですね。しかもどういうわけか、小さな頃から、自分の同世代の友達よりも、おばあさんなど年配の人たちと話をするのがとても好きな子供でした。今でもどちらかと言えば年上の人に対して、とても好奇心が掻き立てられるんです。例えば今、目の前にいる池ノ辺さんや通訳の方は、どんな人生を歩いてこられたんだろうと、ものすごく気になります(笑)。

池ノ辺 教えてと言われれば、いっぱい話せますよ、長く生きていますから(笑)。

ソルヒ そうだろうなと思います(笑)。とにかく自分よりも長く生きてこられた方たちの経験というのが気になって仕方がないんです。ただ、あまりにもそうした人に対する興味や関心が強いという性格のせいで、私はできる限り家にこもるという生活をしているんです。

池ノ辺 それはまたどうして?

ソルヒ 外に出て人に会ってしまうと、その人への興味がどうしようもなく掻き立てられて、夜、眠れなくなってしまうほどなんです。今日も、おそらく寝る前に、今日お会いした人たちはどんな人生を歩んでこられたのか、想像を巡らせて、ずっと考えて眠れなくなると思います(笑)。目の前の生きている人に対して、まるでレーダーが反応するように興味が湧いてしまう、そんな性質なんです。日常生活でもそんな状態なので、もう疲れ切ってしまいますから、自分ではなるべく外に出ないようにしています。

池ノ辺 だからこそ、こういう映画が作れるんでしょうね。今回、作品を拝見して、監督の編集がすごくいいなと思ったんです。何か影響を受けたり参考にしたりした作品はあるんですか。

ソルヒ この作品はそもそも映画アカデミーの長編課程のカリキュラムで作った作品なんです。作るときにいくつかのルールがあって、そのうちの一つが、撮った監督が直接編集するというものでした。これは、アカデミーの教育方針でそうなっているんです。専門家の方に編集していただければもっとスムーズな流れになったかもしれません。もちろんもっと伸ばしてそのあとを見せるかどうかも悩んだのですが、私が自分で本能に従って編集して、ブツッと途切れるようなカットになりました。あとの部分は敢えて観客に委ねて、観客が自分で想像することでこの映画を一緒に完成させてほしいと思ったんです。ある意味では不親切なのかもしれませんが、観客に、この映画に参加して作ってほしいという、そんな意図がありました。

池ノ辺 なぜこの質問をしたかというと、私はこの編集を観て、「北野武だ!」と思ったんです。

ソルヒ えーっ!?、それは、ありがとうございます!とっても嬉しいです。

池ノ辺 では、最後の質問になりますが、監督にとって映画ってなんですか。

ソルヒ 映画について改めて語るのは照れくさいのですが、私にとっては、映画というのは手に負えない大変なものです。脚本に関してもそうですし、撮ることも、それに人と一緒に作るということ自体も、本当にやっかいなものに感じています。だから、いつもそこから逃げようとするんですけど、逃げても映画が私についてくる、追ってくる、そんな感覚があります。きっと一生こんなふうに、別れられず、離れられずに生きていくんだろうなと今は思っています。北野武監督に近づいていかなければいけないですしね(笑)。

池ノ辺 次作も楽しみにしています。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理

プロフィール
イ・ソルヒ ( Lee Sol-hui )

監督・脚本・編集

1994年生まれ。成均館大学校で視覚芸術を学んだ後、『パラサイト 半地下の家族』(2019)のポン・ジュノ監督や『スキャンダル』(2003)のイ・ジェヨン監督らを輩出した名門映画学校、韓国映画アカデミー(KAFA)で映画監督コースを専攻。初の短編映画『The End of That Summer』(2017)は第18回大韓民国青少年映画祭、第14回堤川国際音楽映画祭にて上映された。2021年には『Look-alike』(2020)が第22回大邱インディペンデント短編映画祭のコンペティション部門に、『Anthill』(2020)が第26回釜山国際映画祭のWide Angle部門にノミネートされ注目される。初の長編映画『ビニールハウス』(2022)は、第27回釜山国際映画祭でCGV賞、WATCHA賞、オーロラメディア賞を受賞し、新人監督としては異例の3冠を達成。さらに第44回青龍映画賞、第59回大鐘賞映画祭で新人監督賞にノミネートされた。

作品情報
映画『ビニールハウス』

ビニールハウスに暮らすムンジョンの夢は、少年院にいる息子と再び一緒に暮らすこと。引っ越し資金を稼ぐために盲目の老人テガンと、その妻で重い認知症を患うファオクの訪問介護士として働いている。そんなある日、風呂場で突然暴れ出したファオクが、ムンジョンとの揉み合いの最中に床に後頭部を打ちつけ、そのまま息絶えてしまう。ムンジョンは息子との未来を守るため、認知症の自分の母親を連れて来て、ファオクの身代わりに据える。絶望の中で咄嗟に下したこの決断は、さらなる取り返しのつかない悲劇を招き寄せるのだった。

監督:イ・ソルヒ

出演:キム・ソヒョン、ヤン・ジェソン、シン・ヨンスク、ウォン・ミウォン、アン・ソヨ

配給:ミモザフィルムズ

© 2022 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

公開中

公式サイト vinylhouse

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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