Mar 16, 2024 interview

イ・ソルヒ監督が語る 人に対するとめどない好奇心から生まれた映画『ビニールハウス』

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身内だからこそ苦悩が深まるというアイロニー

池ノ辺 本作はとても面白く拝見しました。どんな監督が撮っているんだろうと、すごく興味が湧いたんですが、今回お会いしたら若くてきれいな方なので、「映画の内容的に、なぜこの方があの映画を撮れるんだろう」と正直驚いています。老人介護とか認知症の方とか、そういったものが監督の身近にあったんですか。

ソルヒ 実際に私の母方の祖母が認知症を患っていたので、私の母が介護をしていました。その姿を数年間見守っていたという経験があります。そこからこの映画は出発しているといえるかもしれません。

池ノ辺 映画は、とても深い負の部分が凝縮されているように感じたのですが、それは監督ご自身が感じてこられたことなんですか。

ソルヒ もちろん、私は看病する母の姿を見て、それをあたたかなヒューマンストーリーにするということもできたかもしれません。ただ、私自身が興味を持ったのはそれではなかったんです。母は、本当に生涯他人のために奉仕するという人生を送ってきた人なんです。ボランティア活動を熱心にしていて、他人を助けることを自分の喜びとする、そんな人でした。それが、いざ、自分の母の、つまり私の祖母の看病が始まると、母はそれをとても苦痛に感じて本当に辛そうでした。

池ノ辺 それは身内だからということですか。

ソルヒ そうだったと思います。もしかしたら、家族の面倒を見るより他人の面倒を見る方が、人にとってはより容易なことなのかもしれないと、その時思ったんです。実際私も、自分の家族や友人よりも、今のように知らない人の前では楽に「親切な良い人」の姿を見せていられます(笑)。ほとんどの人がそうなんじゃないですか。それは人間がどうしても抱いてしまうアイロニーではないか、そこに興味が惹きつけられました。