峯田和伸の楽曲から一本の物語を岡田惠和が紡いだ小説『いちごの唄』(朝日新聞出版)は、田舎に生れ育った少年が大人になって東京に出て来て、幼い頃から好きだった女の子と再会するラブストーリー。
ドラマ『奇跡の人』で出会った岡田と峯田が、朝ドラ『ひよっこ』を経て行った、新しく刺激的なコラボレーション。それは仕事というより大人の遊びのようなもので、それぞれが真剣に仕事をしているからこそ、合わさるともっと楽しいものになる。
そんなふたりの対談は、6月9日に小田急百貨店 新宿店本館10Fの、ブックカフェを併設した雑貨と本のお店〈STORY STORY〉で行われた1時間のトーク、2時間のサイン本のお渡し会のあと行われました。
こんなふうに仲良くなることはあんまりない
岡田 僕はお渡し会というのは初体験でしたよ。
峯田 しゃべったのは1時間位でしたかね?3時間くらいは余裕でしゃべれたと思う(笑)。
岡田 こんなにたくさん一緒にしゃべったのは、峯田君が僕のラジオ番組(『今宵、ロックバーで〜ドラマな人々の音楽談義〜』)に出てくれた以来だよね。
峯田 そうですね。こんなふうに脚本家の方と仲良くなることはあんまりないことだと思います。
岡田 うん、あんまりないよね。
峯田 岡田さんとは特別で、好きな音楽とサッカーチームが一緒だったから話が合ったんですよね。
岡田 世代は全然違うのに、好きなものが似ていたんだよね。兄弟……というよりはおじさんと甥っ子みたいな感じなのかな。
──今日のおふたりの服が黒白ですが、合わせたんですか?
峯田 全然。
岡田 まったく。そんなことしていたらこわいっすよ(笑)。
僕の大事な人たちがこの本の中に入っている
──おふたりがコラボした『いちごの唄』、素敵な本でした。峯田さんがトークショーで話された「岡田節」とはどういうものですか?
峯田 ひとりの男の子の描き方が、岡田さんらしいと感じました。人の死や片思いなどの苦々しい部分も生々しくなくて、なんていうんだろうなあ……言葉が悪いかもしれないけどファンタジックな描き方をされるんですよね。例えば、黒を塗るにしても、ただベタ塗りで黒がドンとあるんじゃなくて、黒にいくまでに黄色だったりピンクだったりが薄く入って、それによって甘みを感じさせる。そういうところが岡田さんの作品で僕の好きなところです。
──峯田さんの曲を古い曲から新しい曲までを7曲並べて一本の物語にしている趣向が面白いですね。
岡田 自分で言うのもなんですが、素敵なことになったなあと思いました。最初はトリビュートってことで、一曲ずつ短編集にする案もありましたが、そうするととっつきにくいかなと思って、一本の物語にしたんですが、そういうやり方ってあんまりないですよね。
峯田 そうですよね。一曲一曲、それぞれの曲にバックグラウンドがあるわけですよ。たとえば、『東京』は、当時つきあっていた彼女と別れてしばらくしてからその感情を曲にしたもので。その子の名前と顔が曲のなかにあるんですね、僕の中には。『漂流教室』はずっと前に亡くなった友達のことがきっかけになって生まれたとか。岡田さんはもちろんその人たちの顔も名前も知らないにもかかわらず、そういう僕の大事な人たちがこの本の中に入っているようですごく不思議な感じがします。
──小説の主人公は峯田さんのイメージなんですか?
岡田 峯田くん個人ということではないですね。僕の好きな男の子像が、峯田君が描いている銀杏BOYZの主人公になり得る男の子に近いだけで。なんていうのかな…絶妙にダメで、かわいくて、純情で、童貞感があって(笑)
峯田 ふふふ。
岡田 それが峯田君とどれくらいイコールなのか僕はわからないけれど、僕にはこう聞こえるってだけで。聞いている人の数だけ、その男の子像は違うと思いますしね。
映画化も念頭に入れたプロジェクト
──読んだとき、絵を描くことを考えながら読みましたか。
峯田 最初は絵を描くことを考えずにまず純粋に読みました。次にどういう絵を描こうかなと思って読んで。
岡田 この本を企画したとき、峯田さんの既存の曲を僕が小説化するような一歩通行なものにはしたくなかったので、まず、絵を描いてくださいとお願いしたんですよ。
峯田 ははは。
岡田 今までのアルバムやグッズ関係のビジュアルが好きだったので、そういうのが本にも混じっていたらいいなあって思ったんです。
──映画化も念頭に入れての企画だったんですか?
峯田 最初から、するみたい、するかもよ? と言われていました。
岡田 そのつもりでいこうっていうプロジェクトでした。
──トークショーで峯田さんも出演されるだろうと話していましたね。
峯田 映画の脚本だとここに描いてない人もでそうですものね。
岡田 どうですかね……楽しみですよね。