Nov 30, 2023 interview

小沢まゆインタビュー 妻の気持ちが分からない男の自分なりの「愛すること」の物語『ホゾを咬む』

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―― 休んでいる時、不安ではありませんでしたか。

かなり、不安は感じていましたね。“仕事したいな~”という思いは常にありました。でも今思うと、仕事から離れて子ども達といちお母さんとして過ごしている時間、いち近所(地域)のひとりとして、そういう日常を過ごすことにも楽しさをちゃんと見つけていた気がします。何をやっていても楽しかったんです。

 “役者をやりたい”という思いもありましたが、“今、子ども達と過ごす時間がとても大事だ”と思いながら生きていました。

―― いいですね。「子どもを産んだらこれまでのキャリアが終わってしまうのではないか」と不安を感じている女性の監督や役者はたくさんいます。それに日本は、大人の女性達が主人公の物語が少ないとも感じています。

そうですね、それは思います。歳を重ねた女性がもっと映画でも輝けるような世界を作っていきたいと思っています。そういったことからプロデューサーならば、自分が理想とする映画を作れると思い始めました。プロデューサーをやっていて思うことは、さとりさんが言うように「仕事を休んでしまったらもう戻れないのではないか」とか「子どもを産んだら仕事がなくなるのではないか」と不安をたくさん抱えている役者やスタッフの方が多いということ。だからそのような心配をすることなく、仕事を続けられる、もしくは休みたければ休んで、また安心して戻って来られるような業界を作っていかなければならないと凄く感じています。

やはり子育て中は、自分が仕事をすることが出来なかったので‥‥、子どもを産んで育てる期間は仕事が出来ないし、ブランクを経て復帰する時も大変でした。

今回の『ホゾを咬む』では、スタッフの中に小さいお子さんがいらっしゃる女性スタッフが居たんです。その方が参加して下さる時に「育児の負担にならないような働き方をして欲しい」という話をしました。例えば通常、保育園にお子さんを預けているので、お迎えと送りの時間を考慮して支障のない時間内で働いてもらう。彼女の場合は10時から16時30分までで、それ以外は仕事をしない。どうしても保育園以外の時間で働かないといけない場合はどこかに預けないといけないですよね。そうなると例えばベビーシッターを頼んだりするとお金が発生します。その場合は、「ベビーシッター費などの保育料は全て製作費で負担するのでお金の心配はせず、安心してお子さんを預けていいですよ」というお話もしました。安心して働いて欲しいので、最初に「どんな働き方がいいか?」を本人に聞きました。そんなふうに『ホゾを咬む』の現場では、要望を聞きながら情報を共有して、スタッフ皆で協力しながらやっていきました。小さなことですが一つ一つ実践して、“どうすれば上手くいくのか、どこを改善すればもっといいのか”を探りながらやっていきました。こうやってもっと働きやすい業界にしていけるといいですよね。

2001年公開『少女〜an adolescent』で第42回テサロニキ国際映画祭最優秀主演女優賞を受賞し、俳優デビューを果たした小沢まゆさん。そんな彼女は前田弘二監督などと仕事をした後に、一旦、育児業に専念し、再び映画界に戻ってきました。地元である熊本を想って熊本県の震災復興映画イベントを主催するなど、演じること以外にも映画を通して自分に出来ることを見出してきた彼女が、今、目指すのは“どんな女性も居場所となる映画の現場”でした。居場所がないなら自分で作る。自分と同じような思いを他の女性達にさせない為に撮影現場をフレキシブルに変えていく。そして自分が思う面白い才能の人との映画作り。これから先、彼女はまたどんなものを生み出すのか。本作も“映画館で多くを読み取れる感情の映像表現”と言える作品。この視点に気づく彼女の才能も面白い。私はそれを見つめ、応援して行くのが楽しみでもあります。

取材・文 / 伊藤さとり
撮影 / 奥野和彦

作品情報
映画『ホゾを咬む』

不動産会社に勤める茂木ハジメは結婚して数年になる妻のミツと二人暮らしで子供はいない。ある日ハジメは仕事中に普段とは全く違う格好のミツを街で見かける。帰宅後聞いてみるとミツは一日外出していないと言う。ミツへの疑念や行動を掴めないことへの苛立ちから、ハジメは家に隠しカメラを設置する。自分の欲望に真っ直ぐな同僚、職場に現れた風変わりな双子の客など、周囲の人たちによってハジメの心は掻き乱されながらも、自身の監視行動を肯定していく。ある日、ミツの真相を確かめるべく尾行しようとすると、見知らぬ少年が現れてハジメに付いて来る。そしてついにミツらしき女性が誰かと会う様子を目撃したハジメは‥‥。

脚本・監督・編集:髙橋栄一

プロデューサー:小沢まゆ

出演:ミネオショウ、小沢まゆ、木村知貴、河屋秀俊

製作・配給:second cocoon
 
©2023 second cocoon

12月2日(土) 新宿K’s cinema他全国順次公開

公式サイト hozookamu

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当。 全国のTSUTAYA店内で流れるwave−C3「シネマmag」DJであり、自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。また映画界、スターに詳しいこと、映画を心理的に定評があり、NTV「ZIP!」映画紹介枠、CX「めざまし土曜日」映画紹介枠 に解説で呼ばれることも多々。TOKYO-FM、JFN、TBSラジオの映画コーナー、映画番組特番DJ。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。心理カウンセリングも学んだことから「ぴあ」などで恋愛心理分析や映画心理テストも作成。著書「2分で距離を知事メル魔法の話術」(ワニブックス)。
2022年12月16日には最新刊「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白100選」(KADOKAWA)が発売 。 https://www.kadokawa.co.jp/product/302210001185/
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net