――役者をやる中で自分が目指すものへのブラッシュアップはどうしているのですか。またどんなことを大事にしていますか。
本作は母と娘なので、身近な存在である自分の母親との関係について、改めて見つめてみました。母とは一緒に料理をしたり、出掛けたりして仲が良い方だと思います。でも、もちろん違う人間なので、全てを理解し合えるわけではありません。そんな時には寂しさも湧いてきます。でも、親子であっても、そういうものだよなぁとも思うし、きっと誰にでも、分かり合えないもどかしさを感じる瞬間はあるんじゃないかなと思います。なので、私の中にもある母親に対してどうしても理解できない部分や、分かり合えないもどかしさを掘り下げることに時間をかけていました。大好きだからこそ、その傷みたいなものが凄く深くあるという体験を、こうやって喋っていると出てくるんですよね。その塊みたいなものが【可那子】に詰まっているみたいな感じがしています。
映画はあくまでも物語なので、「1時間30分の中でどこを強く描くのか?」ということが大切だと思いました。映画で描かれる母と娘の上手くいっていない部分は、二人の関係のほんの一部なので、描かれていない時間にも思いを回らせながら、二人の心の距離を想像することを心がけていました。【未知】は母親である【可那子】にあんなにきついことを言われているのに、なぜ会いに行くのか。そこには、言葉だけでは分からない気持ちがあると思うんです。だからこそ、未知の行動の裏側にある感情を自分自身の経験から探っていきました。実際に母親との関係の中で感じてきたことを役と重ね合わせることで、未知の気持ちに近づいていけたように思います。

――だからこそ自分にしか出来ない演技になるのですね。心に痛みを抱える役を演じた後に自分をリセットする方法はありますか。
やりたくなることは、予定を決めずに旅をすることです。最近では、NHK夜ドラ「ラジオスター」の撮影で能登を訪れたことをきっかけに、撮影以外でも2回ほど足を運んでいます。能登は海鮮がとてもおいしくて。ドラマの撮影が秋だったのでまだ真冬には行けていないのですが、せっかく能登とのご縁が生まれたので、食を通して季節ごとの魅力を感じられたらいいなと思っています。
海外旅行も素敵ですが、今は日本の中で、まだ行ったことのない場所を訪れてみたい気持ちがあります。新潟まで車を運転をして行くこともありますし、日帰りで京都に出かけることもあります。あまり予定を詰め込まず、その土地ならではの景色や食に出会いながら、気の向くままに旅を楽しみたいです。
どんな作品にも登場すると香りを残す福地桃子さん。彼女の持つ空気感が奈良の空気とマッチして、つい見惚れてしまった映画だった『恒星の向こう側』。映画は分かり合えない母と娘というテーマなものの、描かれるのは娘の心の解放という普遍的なものなので、スーッと心に言葉にならない無限の愛が溶け込んでいくような感覚を味わう作品でした。福地桃子さんの言葉ではない感情から生まれる仕草と河瀨直美さんの全身から湧き上がる演技が調和して奏でられる「愛の物語」なので、東京国際映画祭最優秀女優賞W受賞なのだと納得。私は福地桃子さんの表現力に毎回、釘付けになるんだよなと気付かされる映画でした。

母の余命を知った娘は、残された日々を共に過ごそうとするものの、長年にわたり積み重なった親子の軋轢と直面することになる。母との溝が埋まらぬまま、夫との関係にも不安を抱える中、その体内では新たな命が育っていて‥‥。
監督・脚本・編集:中川龍太郎
出演:福地桃子、河瀨直美、寛一郎、朝倉あき、南沙良、三浦貴大、久保史緒里、中尾幸世
配給:NAKACHIKA
©2025映画「恒星の向こう側」製作委員会
2026年10月30日(金) 新宿武蔵野館、TOHOシネマズシャンテほか全国公開
