Jun 26, 2018

コラム

藤井青銅とメディアとの関わり(少年編)

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 ぼくの実家では、昔から隣の空きスペースを知り合いの床屋さんに貸していた。子供の頃から床屋さんだったから、それ以前はどうだったのか知らない。そして新聞受けがなぜか共通だった。我が家は毎日新聞を取っていた。床屋さんは朝日新聞。毎朝この二紙が、我が家に放り込まれる(まさに「毎朝の二紙)だ!)。床屋さんは通いなので、朝来るとウチに寄って新聞を持っていくというシステムだった。田舎のことで知り合いだから、それで問題はなかったのだろう。

 小学生のぼくが新聞で読む記事など、たかがしれている。テレビ欄と四コマ漫画、それに下段にある広告だ。本文なんて見出しを見てるだけで、ロクに読みゃしない。小学校高学年になってくると「甲子園の高校野球」に興味を持った。するとスポーツ欄を読むようになる(ぼくはなぜかプロ野球に興味がなく、高校野球が好きだった)。毎年高校野球のトーナメントが進み、決勝近くなるにつれ、テレビは白熱し、当然紙面は盛り上げた。
「ああ、日本中が盛り上がってるなあ」
 と新聞を読みながら興奮を感じていた。
 やがてその興奮が終わり、ある季節になると例年「都市対抗野球」が始まる。高校と違って企業というのは小学生にはなじみがなかった。が、全国各地の都市が対抗で試合をするという図式は、高校野球と同じだから理解しやすい。こっちの方もトーナメントが進むにつれ、紙面は盛り上がっていった。

 ある日の朝。この日は学校に行く仕度が早く済んだので、少し時間があった。それで何気なく、隣の床屋さん用に配達された朝日新聞を勝手に手に取り、めくった。いつも読んでいる毎日新聞ではまさに都市対抗野球が盛り上がっていたので、さぞやこっちの新聞でも興奮する記事が載っているのだろう…と期待して。ところが、
「ありゃ? ありゃりゃ…? 都市対抗野球なんてどこにも載ってないぞ!」

 その時ぼくはようやく「都市対抗野球は毎日新聞社が主催する大会」という事実に気がついたのだ。なるほど、それで毎日新聞では派手に盛り上げているが、朝日新聞では無視なのか…と。これは、小学生には大発見だった。
 子供にとって世間への入り口は狭い。ぼくは我が家に配達される毎日新聞のみを読んで、そこから日本中が盛り上がっていると思っていた。が、朝日新聞だけを読んでいる人にとっては、盛り上がりどころか、そんな大会の存在すら知らないのかもしれない。
(そういえば…)
 と思った。高校野球について、それまで薄っすらと感じていた「春のセンバツ」と「夏の大会」についての微妙な温度差の理由もわかった(夏は朝日新聞主催で、春のセンバツは毎日新聞主催だ)。
 以来ぼくは、新聞やテレビ、ラジオの言うことをそのままでは信用しないイヤな子になったわけだが…。

 昨今、「メディア・リテラシー」ということがよく話題になる。リテラシーとは読み書き能力のことだが、メディア・リテラシーとは「その情報は本当か?」を見極め、「どういう立場から発信されている情報なのか?」も含めて受け取るということだ。最近話題の「フェイク・ニュース」に騙されないためのスキルでもある。
 ニュースや情報や話題は、それを発信するメディアの立場によって色合いが変わる。とくにネットニュースやSNSでの情報は、自分好みにカスタマイズできる。そこが問題で、世間一般の姿だと思っているものが、実は自分好みに創られた別の世界を見ているだけかもしれないのだ。
 複数のメディアから見なければ、実像はわからない。はからずもぼくは小学生の時、そういうメディア・リテラシーの神髄を学んでいたのだ。エッヘン!(ま、たんに隣んちの新聞を盗み見したってことだけど…)

「新竹取物語1000年女王」は、もちろんそれなりに盛り上がった。が、すでに松本零士作品は飽和状態にあったのか、残念ながら爆発的大ブームにはならなかった。
 一つのメディアグループでの盛り上がりと、世間での盛り上がりとは違う。それもまたぼくの中で、メディア・リテラシーの教訓になったのだった。

 

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藤井青銅

藤井青銅(ふじいせいどう)
23歳の時「第一回・星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家となる。

書いたラジオドラマは数百本。腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行い、衝撃的デビューを飾る。最近は、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。 著書「ラジオな日々」「ラジオにもほどがある」「誰もいそがない町」「笑う20世紀」「あなたに似た街」「【悲報】本能寺で何かあったらしい……光秀ブログ炎上中! 歴史Web2.0」…など多数。

藤井青銅著「ラジオにもほどがある」(小学館刊)
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