Jun 05, 2018

コラム

面白いのにNGなコント番組の台本

→前回までのコラムはこちら

「藤井さんの台本は面白いからなあ…」
 これが、その時言われた言葉だ。文字通り、褒めている。逆の意味での嫌味とか、皮肉ではない。だが、これはおそらく苦情なのだった。
 今度の現場は、テレビのコント番組。ぼくが書いたコントの台本についてだ。前述のTV情報誌ならば「ウチの雑誌の本道は情報。面白い企画は、いわば添え物。なので、添え物をやめて本道で勝負する」と言われれば、納得する。
 しかしコント番組の場合、「本道は面白い」なわけで、そこで苦情を言われて、ぼくは面食らったことがある。

 さて、ここからの説明が難しい。はたしてうまくニュアンスが伝わるだろうか?

 その番組でコントを演じるのは芸人さんだった。実は、芸人さんにはタイプがある。大きく分けて「役者タイプ」と「アドリブタイプ」。
 役者タイプは、演劇要素が強いコメディに向いている。決められたセリフや仕草を上手に演じて、笑いを取るタイプ。だから何度繰り返しても、本人は飽きない。今ではすっかり減ってしまったが、かつての軽演劇がそうだった。いまも小劇団出身にそういうタイプが多い。芸人では、作り込んだコントをする人たちは多くがそう。芸人ではなく役者だが妙にコメディがうまいという方たちも、これだろう。
 一方、アドリブタイプは、そういうのが苦手。同じことを何度もやるのが照れくさいし、飽きてしまうのだ。そのかわり瞬発力がある。思わぬアドリブで爆笑をさらったりする。一発ギャグを得意にする芸人さんの多くは、これ。
 いそいで付け加えておくけど、これは「上手い・下手」の話ではない。あくまで、タイプの違いだ。ここまではいいだろうか?

 さてここに、テレビコント収録の環境というものが関係してくる。スタジオでの収録は、当然周囲にスタッフがたくさんいる。芸人さんはまず、そこにいるスタッフを笑わせたい。それはまあ当然だろう。
 ところが、台本にはボケもツッコミも、すでに面白いセリフとして書かれているのだ。バラエティーの構成台本ならば、セリフのところに、
〇〇 「(受けて一言)」
 とか、
×× 「(リアクション)」
 と書いて演者にまかせたりもする。
 だが、コメディや演劇的な長尺コントの場合、そこに笑いを取るセリフがある。ストーリーに沿ってのセリフなので、決めておかないと困るのだ。むろん、それがつまらなければ作家が責められて当然だが。
 ところが収録時は、共演者も、周囲のスタッフも、全員が台本を見ている。みんなが「そこで何を言うか」を知っているのだ。アドリブタイプの芸人さんには、それがひどくプレッシャーになるようだ。

 それでも、リハーサルの初回はみんな笑う(面白いように書いているのだから、当然だ)。だから、本番一発で決まれば、まあいいだろう。
 しかし、撮り直しがあると、スタッフの笑いは減る。そこで芸人さんは、新鮮なアドリブのセリフに入れ替えるのだ。すると当然、大爆笑がおこる。
 だが、それもまた撮り直しになる場合がある。こうなると、さっきと同じアドリブの一言は使えない。また別のセリフを考えなければならない。
 これが二度、三度続くと、芸人さんの負担は大変なことになるのだ。
(そんな無理をしなくても、テレビで見ている視聴者は初見だからいいじゃないか。台本通りのセリフを言ったからといって、スタッフがバカにするわけもないし)
 とは思うのだが、やはり芸人としてはその場にいる人に受けたいのだろう。スタッフの笑いも含めて放送されるのだから、当然かもしれない。

 しかも、元々台本に書かれたセリフ以上に面白いアドリブでなければ、効果が薄い。だから、台本があんまり面白いと困る。とはいえ、つまらないのも困る…という意味での、
「藤井さんの台本は面白いからなあ…」
 という表現だったのだろう。
 …と長々書いたが、ニュアンスはうまく伝わっただろうか? 「愚痴」にはならなかっただろうか? まったく、「面白い」は難しい。

 

お知らせ

『「日本の伝統」の正体』

藤井青銅(著)/柏書房

★「初詣」は江戸時代になかった? ★「江戸しぐさ」のいかがわしさ ★神前結婚式は古式ゆかしくない ★「古典落語」は新しい? ★恵方巻は、本当はいつからあったのか? ★アレもコレも「京都マジック」! ★初めて「卵かけご飯」を食べた男とは? ★サザエさんファミリーは日本の伝統か? ……一見、古来から「連綿と続く伝統」のように見えるしきたりや風習・文化。しかし中には、意外に新しい時代に「発明された伝統」もある。もっともらしい「和の衣裳」を身にまとった「あやしい伝統」と、「ほんとうの伝統」とを対比・検証することで、本当の「ものの見方」が身につく一冊。 フェイクな「和の心」に踊らされないための、伝統リテラシーが磨かれる!

 

saydo_cover_170330

『幸せな裏方』

藤井青銅(著)/新潮社

otoCotoで連載中のコラム『藤井青銅の「この話、したかな?』が書籍化! 好評発売中です。


■電子書籍で購入する

Reader Storeはこちら

ブックパスはこちら

 

■紙版で購入する

藤井青銅

藤井青銅(ふじいせいどう)
23歳の時「第一回・星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家となる。

書いたラジオドラマは数百本。腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行い、衝撃的デビューを飾る。最近は、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。 著書「ラジオな日々」「ラジオにもほどがある」「誰もいそがない町」「笑う20世紀」「あなたに似た街」「【悲報】本能寺で何かあったらしい……光秀ブログ炎上中! 歴史Web2.0」…など多数。

藤井青銅著「ラジオにもほどがある」(小学館刊)
→電子書籍版

プロフィール詳細を隠す表示する

この記事が気に入ったらクリック

SNSでシェア

このエントリーをはてなブックマークに追加