多様性からの逆行があの話題作の追い風に?
ここで見えてくるのが、今年度の“傾向”である。演技賞フロントランナーの4人は、すべて白人。昨年受賞の4人の内訳は、黒人2、白人1、エジプト系1で、たまたまとはいえ、人種の多様性が反映されていた。しかし今年は演技賞ノミネート19人のうち、黒人は主演女優賞候補のシンシア・エリヴォ(『ハリエット』)のみ。多様性からの逆行である。当初は、黒人ではエディ・マーフィ(『ルディ・レイ・ムーア』)やジェイミー・フォックス(『黒い司法 0%からの奇跡』)、アジア系ではオークワフィナ(『フェアウェル』)、そして韓国のソン・ガンホ(『パラサイト』)あたりのノミネートの可能性もささやかれたが、結果的に圧倒的な白人優位の顔ぶれになってしまった。オークワフィナは、ゴールデングローブで主演女優賞(コメディ/ミュージカル部門)を受賞したにもかかわらず、アカデミー賞ではノミネートすらされなかったのである(同じくゴールデングローブでコメディ/ミュージカル部門の主演男優賞を受賞したタロン・エジャトンもアカデミー賞ではスルーされるサプライズ)。数年前に問題になった“白すぎるオスカー”の復活である。
そんなノミネートの状況が受賞結果に反映されるかもしれない。唯一の黒人であるシンシア・エリヴォに予想以上の票が集まる可能性もあるし、演技賞が白人オンリーになりそうなら、作品賞や監督賞は『パラサイト』への追い風が吹くこともある。アカデミー賞の長い歴史でも、外国語映画が作品賞に輝いたことはなかったので、『パラサイト』が達成すれば大きな快挙。そんなチャンスの可能性も、今年の傾向によって意外に高いのだ。『パラサイト』は、国際長編映画賞(旧・外国語映画賞)の受賞は確定的。作品賞と2冠(あるいは監督賞を含めて3冠)となれば、ビッグニュースとして取り上げられるだろう。とはいえ、なんだかんだ言って“保守的”なアカデミーなので、この快挙へのハードルは高い。
長編アニメも候補入り、勢いを増すNetflix作品
さらにもうひとつの気になる傾向は、昨年から続くNetflix作品の勢いである。作品賞には『アイリッシュマン』『マリッジ・ストーリー』の2作がノミネート。演技賞ノミネート19人のうち、Netflix作品が対象になっているのが7人。約3分の1を占めているのだ。“アカデミー賞を狙える”“演技力が発揮できる”作品をNetflixが支える映画界の現実は、年々鮮明になってきた。
その勢いを示すのが、長編アニメ映画賞で、ノミネート5本のうち2本がNetflix作品。しかもその2本『クロース』と『失くした体』が、前哨戦となるアニー賞(アニメーション作品を対象にした賞)で、それぞれ長編アニメーション作品賞、インディペンデント作品賞という2トップを獲得。アカデミー賞受賞も射程に入っている。ディズニー、ピクサーなど大手スタジオが独壇場だったこの部門でもNetflixの強さが示され始めたのだ。