それをこのアニメではライスシャワーの視点を主として描いている。客観視すればただでさえキツい当時の風潮を、その矛先が向けられた側からの視点でだ。そこに持ち込まれた前記の3要素の使い方と「フィクションならではのドラマ性と視点」に感心させられた。
世のメジロマックイーン人気で押しつぶされそうなプレッシャーの中、「なぜ自分はそれでも走るのか」が問われる徹底的なスポ根展開のフィクション。
レースパートにおける勝利と、期せずして叩き出したコースレコード。それで起こった世間の反応という史実。
その空気がライスシャワーにはどう映ったのかへの想像と、多くから望まれなかった孤独な勝者に対して賞賛を向ける他のウマ娘達という、ライスシャワーに救いを与えるファンタジー。
ライスシャワーをヒール“役”に勝手に置いて、その中で語り評した当時の風潮への批判にも感じられる。第三者が勝手に役割を設定し、そのキャスティングでの物語化をしてしまった事への批判性だ。「ライスシャワーはヒールだったんじゃないだろ。勝利者だったんだろ」という見失われてしまった視点。競馬だけの話ではなく、もしかすると僕らはその他の多くのことに対して同じ事をしてしまっているのではないのかと考えさせられる。その反省、やってしまった事への救いも含めたものとして描かれるのがファンタジーたる仲間達からの賛辞だ。
事実は事実通りに描けば事実の再現となるのだろうか。それを改ざんだと考える人もいるかも知れないが、改ざんは事実そのものをねじ曲げることだ。フィクションを交えることでより明確な事実を浮かび上がらせ、見失っていたものを見せてくる事はそれとは違う。この塩梅の妙は多くのフィクションやノンフィクションに接してきた人ほど感じられるのではないか。
イロモノ作品だなんて思ってごめんなさい。『ウマ娘』にはそういう物語の面白さが詰まっている。
文 / 岡野勇(オタク放送作家)
原作:Cygames
監督:及川 啓 助監督:成田 巧 シリーズ構成:Cygames
キャラクターデザイン・総作画監督: 椛島 洋介
キャラクターデザイン:辻 智子
総作画監督:藤本 さとる
メインアニメーター:式地幸喜、小畑賢、中島順、宗圓祐輔
制作協力:P.A.WORKS
美術監督:岡本 穂高
【公式サイト】https://anime-umamusume.jp/
(C)2021 アニメ「ウマ娘 プリティーダービー Season 2」製作委員会