Dec 29, 2020 column

『美少女戦士セーラームーン』『少女革命ウテナ』 かつて蒔かれた種は時代の中で芽吹いてきている

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そういう面で考えると「今の30代女性は幼少の時点ですでにとんでもない番組に接していた人が多いんじゃないのか?」と思い当たる。「女の子は守られる側ではない」と宣言した『セーラームーン』があり、その数年後、よりにもよって『セーラームーン』を見ていた女の子たちが思春期にさしかかった時という抜群のタイミングで『少女革命ウテナ』(97)が登場した。

『少女革命ウテナ』は男装の少女・天上ウテナが、学園の裏で行われる“それを手にした者が世界を革命出来る”と言われる少女・姫宮アンシーを巡る戦いに巻き込まれることから始まる物語だ。あまりにも簡単に記したがそんな説明では伝えきれないほどの、思春期そのものを体現したかのようなドラマが前衛的な映像とともに描かれる。言葉では説明できないが映像を見れば伝わってくるという映像言語による表現も多く、放送当時に僕は人に説明したくても出来ないもどかしさに悶え、言語と説明能力の敗北に打ちひしがれたほどだった。

『セーラームーン』でディレクター、脚本を手がけた幾原邦彦と榎戸洋司による作品で、寺山修司の演劇集団・天井桟敷からの影響や、様々なシンボリックな暗喩などで構成された伝説のアニメだ。難解であると捉えられることもあるが、核にあったものは極めてシンプルな「王子様とお姫様」という女の子たちを取り巻いている古来からの概念やシステムそのものの打破になる。『セーラームーン』が提示したことのさらなる追求と拡張アップデートだ。その命題の部分において僕の中ではこの2作品はとても根深く繋がっている。
「女の子は王子様に守られる側ではない」という宣言からたった数年で、今度は「いや、そもそも王子様は必要なんだろうか」「王子様よりも大事なものがあるのではないか」という命題を訴えてしまった。劇薬のような作品だが視聴者の彼女たちを取り巻いていた概念や認識そのものを呪縛とし、その呪縛からの解放を描いた。それゆえに“革命”である。

『セーラームーン』も『ウテナ』も。見ていた子たちがこれらの作品にそれだけの革命性があったと気づいていたかはわからない。だが、幼少から思春期というもっとも多感な時期にこれらを見て、それを正面から受けてしまった子がいたのなら…?
00年頃、「これらを見ていた子と見ていなかった子。さらに見ていた子の中でこれが何であったのかが残り続けた子の間では、たぶん20年後に生きるにあたっての意識や生き方の姿勢そのものに大きな差が出てくる」と思うことがあった。20年後と思ったのは、その当時の僕の年齢と彼女らがほぼ同じ年齢にさしかかることからの想像だった。

その時にその子たちはすでに子供ではなく僕らと同じ社会に立っている。もしかしたら一緒に仕事をすることもあるかも知れない。でも、その“革命”が刷り込まれて育った世代を相手に、それを知らないオッサン世代の古いオヤジ価値観なんか通用するんだろうか?

その、かつて想像した“約20年後”が来ている。フィクションが示すテーマや命題は必ずしも即効性があるわけではない。かつて蒔かれた種がどのような結果となったのかが、そろそろわかる時代になってきている。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)

作品情報
劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」《前編》

原作・総監修:武内直子「美少女戦士セーラームーン」(講談社刊)

監督:今 千秋 脚本:筆安一幸 キャラクターデザイン:只野和子 音楽:高梨康治

出演:三石琴乃 金元寿子 佐藤利奈 小清水亜美 伊藤 静 福圓美里 野島健児 皆川純子 大原さやか 前田 愛 藤井ゆきよ 広橋 涼 村田太志 中川翔子 松岡禎丞 渡辺直美 菜々緒

主題歌:ももいろクローバーZ with セーラームーン&セーラーマーキュリー&セーラーマーズ&セーラージュピター&セーラーヴィーナス

「月色Chainon」EVIL LINE RECORDS

アニメーション制作:東映アニメーション/スタジオディーン

製作:劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」製作委員会 配給:東映

公開情報:2021年 二部作連続公開 《前編》2021年1月8日(金)  《後編》2021年2月11日(木・祝)

【公式サイト】https://sailormoon-movie.jp/

(C)武内直子・PNP/劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」 製作委員会