Jul 14, 2019 column

『薄暮』、そして中編アニメが見せる面白さと可能性

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本作は52分の中編。前記したようにこの60分前後という長さはビデオ作品の劇場先行上映などを始め、もはやスタンダードだ。それらをいくつか見てきて、僕は「もしかして中編はアニメ映画とかなり相性がいい尺(長さ)なのではないか」と思っている。そう思うキッカケとなった作品がいくつかあるのだが、ハッキリと感じた最初の1本は『花咲くいろは HOME SWEET HOME』(13)だった。同TVシリーズの後日談ゆえに設定もキャラクターも観客が知っているという前提があるが、わずか66分の中で母娘3代の心情が時代を超えて交差するドラマの描き方は見事で、見終えたときの満足感の高さから60分前後というのはこんなに濃密なことが描けるのかと驚いた。

そしてもう1本が『薄暮』の山本監督による『Wake Up, Girls! 七人のアイドル』(14)だった。後に続く『Wake Up, Girls!』シリーズの1作目であるこの作品はTVシリーズスタートに先駆けて劇場上映をされた。震災後の東北を舞台に七人の女の子たちがローカルアイドルをはじめるというもので、TVシリーズはこの作品から続いてはいるのだが、実はこの作品だけでも1本の青春劇として成り立っている。

それぞれに事情や想いを抱えてアイドルを目指した主人公たち。だが、初ステージを目前に、無責任な大人によってそれが壊されてしまう。アイドルとして始まる前に終わってしまった彼女たちが、それまでの自分を否定しないため最初で最後のステージに立つというクライマックスは劇場で見たときに泣いてしまった。53分という短さでありながら、公開年に見た青春映画の中で個人的にはかなり上位に入れたほどだ。

感情のドラマを過度に掘り下げすぎることがなく、省略の案配がちょうど観客の想像力によって埋められる。そのことが直接描写すること以上のものを描き出し観客に伝えてくる。実写と異なる、アニメという手法ならではの時間や空間の省略もそれらを上手く機能させる。この中編という長さにはそういう効果がある。『薄暮』におけるこの長さも同じで、あれよりも長くても短くても印象が異なる作品になったのではないかと思う。

これまでにないほど中編作品が数多く見られる時代が到来している。そして中編は可能性に満ちている。新海誠の『言の葉の庭』(13年、46分)、『リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード』(15年、56分)はそれぞれその後に大きな扉を開くこととなった。長編では興行的なリスクを恐れて強く入れ込むことを避ける作家性や、実験的な表現や手法を持ち込む作品もある。そういった面白さの面に目を向けると、現在の劇場配信中編はかつて80年代にオリジナルビデオアニメーション(OVA)が登場したときにクリエイターやアニメファンが期待した夢が実現しようとしているのかもしれない。TVの制約にとらわれない作品が期待されたOVAは期待と商業性とコストなど様々な要素が噛み合わずに結局衰退したが、この新しいプラットフォームはどうなるだろう。模索が始まってからまだ数年だが、本当に定着するのであれば、ここからそれまでに見たことがない作品が生まれる土壌となっていくのかもしれない。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)