今作でのDr.ヘルはトリックスターだ。 主人公と観客の価値観を揺さぶり、心の底を覗き込ませる。世代にとって共通言語ともいえたほどの作品の、40年以上という時を経ての新作だからこそ出来る作品と観客の距離であり問いかけだ。兜甲児は自身の答を求められる。スクリーンを見つめる僕らの脳裏にも多くのことが去来する。
かつて『マジンガーZ』に熱狂していた世代が何度目かの“これまでとこれから”に向き合いはじめる時期にこの作品が登場した最大の理由はそこにあるのかもしれない。時代が望んだ作品というのはよく耳にする言葉だが、この作品は僕らの世代が望んだ作品だ。
これほど声を大にして「ド真ん中だった50歳前後の“元・男の子”は全員見なくちゃダメだよ!」と言いたくなる作品はない。
だが、『スーパーロボット大戦』や後のコミック作品などからしか『マジンガーZ』を知らない世代にもぜひ見て欲しいと思う。今に連なる幾多の巨大ロボットアニメの原点の1つ。『マジンガーZ』はロボットアニメにおける発明とも言えた。この40数年間で幾多ものスーパーロボット物アニメが作られた。そして長きの中で「スーパーロボット論」や「俺のマジンガー論」のような方向性の作品も登場してきた。だがこの作品は違う。“論”ではなくマジンガーZそのものなのだ。本物の元祖スーパーロボットの姿がそこにある。
「タイトル名しか知らない」「オヤジの世代が見てたって言う古いアニメでしょ…」という人にもぜひ見て欲しい。自分の親たちが子供の頃、何に熱狂していたのか。それを知ることは、それまで感じられなかった親子の何かに気づかされることになるかも知れない。 受け継がれていくヒーロー像や物語には僕らが想像する以上の力があるのだ。
文 / 岡野勇(オタク放送作家)