Dec 28, 2017 column

アニメ業界における映像配信のフロントライン、今そこで起こっていることとは?

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この勢いが行き着いたのは、Netflixが『デビルマン』アニメ化『DEVILMAN crybaby』を製作するというニュースだ。配信事業者が配信を見越してTVアニメ製作に参入するのでも、TVアニメを独占配信するのでもなく、自社の配信専用作品としてシリーズアニメの製作を行う。17年公開の劇場アニメ『夜明け告げるルーのうた』をはじめ海外でも高い評価を受ける湯浅政明が監督。「『デビルマン』のアニメ化として初めて原作の結末までを描く」をキャッチに、年明け2018年1月5日からNetflixで全世界同時ストリーミング配信予定だ。 配信事業によるオリジナル配信作品として、主に海外ではドラマ作品において行われてきていたことがついに日本のアニメでも行われるようになった。この『DEVILMAN crybaby』をはじめ今後いくつか出てくる配信事業製作によるアニメが何をもたらすのかは18年からの要注目点だろう。 「TVアニメの本数が減るのでは?」とも言われるが、これに関しては配信プラットフォームがこれだけ増えたのに放送作品数(正確には放送作品の制作時間数)は減っていないのだから、単純なプラスマイナスにはなりそうも無い。むしろ減っていないが人材は減っているという問題の方が深刻だ。その中でアニメ関係の人たちやファンらが注視しているのは長らく薄給だ過酷だと言われてきているアニメ制作者たちの置かれている状況が良い方向に変化するのかどうかだ。そのため金銭面では「配信事業による製作は通常のTVアニメよりも高い制作費があるからギャラも良く、クリエイターがこぞってそちらに流れる」などという憶測も言われている。さらに言えば、制作者側の権利はどう変わっていくのか。良い方向に変わるのか、あるいはさらに悪くなるのか。始まったばかりのことゆえに現時点ではまだ見えない。そもそもNetflix、amazon、huluをはじめとした幾多の配信事業の勢力図が来年以降どうなるのかすら誰にも見通せない。国内の配信事業者に勢いがつき独自アニメの製作に乗り出す可能性だってある。

深夜アニメ枠が開拓されて約20年がたった。人気作も多く生まれ周辺市場も活況となっている今は第4次アニメブームとも言われる。そこを牽引し、静かな激動を生み出しているこれらのことが今後どうなるのか。こういった「見えない」ことも含め、制作をとりまく製作の変化が視聴者にも目に見えるようになってきたことが2017年であったと思う。18年以降が良い方向に変わるのかどうかはまだ不明だ。しかし変化があるということは、その市場が停滞も思考停止もしていないということの証でもある。変化を拒絶してきた分野が時代とどれだけズレてきたことでどうなってしまったのかは、17年のいくつかの社会問題を思い返せばわかるだろう。

同時に、こういった製作の変化は制作にも別の問題をも生み出す。配信は世界に向けた窓だ。そこでアニメにおいてはまだ「Made in Japan」のブランド力がある。そのため日本のスタッフも入っての共同制作のような形式も多い。 「日本のアニメが中国に買われる!」という懸念に対し、僕が疑問を感じる理由もここにある。今はまだ、中国もそのほかの海外配信事業も「Made in Japan」のアニメが欲しいからだ。「日本のアニメ“風”」のものが欲しいのであれば独自に作るだろう。でも、幸いなことにまだそうなってはいない。 しかし日本のアニメを形作っているキャラクターデザインなどのさまざまな“記号”がこのままグローバルスタンダード的なものへとなっていったときに、そのブランド力はどれほど残れるだろう?そうなったときの日本のアニメにとっての“独自の売り(強み)”は何なのだろう?

開いた窓の向こうからは、そうした課題も突きつけられ始めている。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)