Jul 26, 2017 column

不寛容時代の今、アニメ『セントールの悩み』は視聴者とアニメ制作の現場に多様さを問いかける

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などと重苦しそうなことを書いたが、あくまでも楽しい日常系作品なのだ。それも、多くの萌え系作品のファンタジー的な“日常もの”ともちょっと異なる。作品の画はファンタジー的でありながら、そこで描かれる彼女たちの生活や日常は、僕らが身近に感じられる、生活感という言葉も似合うような“日常”だ。だからこその不意打ち喰らった気分だ。この時点でこの作品を見るのに油断をするのは止めた。

その油断を許してくれそうにない緊張感とのんきで楽しい雰囲気のギャップが見ていて心地よい。

引き込まれたのは何もそういった部分にだけではない。見ているとかなりの世界観設定があることが感じられるが、同時にそれらがけっしてその場その場の思いつきで付け足されているのではないことが感じられる。前記のように僕は原作未読であったのだが、作者は世界観の背景をかなり考え、作りこんでいることが窺える。

“SFっぽい”のではなく“SF”だなあなどと思ったのだが、SFファンの友人に聞いたところ、実際、一部のSFファンの間では以前から注目されているコミックであったそうだ。なるほどと納得できる。こうなるとちょっと変わった女の子たちの日常ものに見えるのは、見る側を引っかけるブラフにすら感じられる。原作のあるアニメ作品だが、いったいどこに向かうのかがまるで想像つかない。何を突きつけてくるのか。あるいは突きつけてくるように見せてそうではないのか。

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さて、この作品にはもう1つ特色がある。それは製作が中国の絵梦(えもん)アニメーションによるものだということだ。日本の放送では少し前から「ハオライナーズ」というアニメブランド枠で作品の放送がされ、最近はほぼ毎シーズン新作が1、2作放送されている。 中国におけるアニメはすでにTV放送はほとんどなくなり、配信が主だという。そしてその配信ビジネスは中国で一大市場となっている。人気コンテンツの1つが日本のアニメ作品だ。 昨年、『Re:ゼロから始める異世界生活』が中国最大手のアニメ配信サイト「ビリビリ動画」で再生数が1億回を突破したことは日本のアニメニュースでも大きく取り上げられた。 日本の作品を買い付けて配信するだけではなく、自分たちでの製作にも乗り出したのが絵梦になる。

しかし、制作も中国だけで行うというのではなく、中国でも人気の日本のアニメテイストをどう入れるのか?に取り組んでいる。日本法人を設置し作品によってはメインスタッフは日本のアニメ制作会社。作業パートによって中国スタッフも入っているというスタイルだ。むしろ中国において中国スタッフだけで制作した作品はあまり見当たらない。ざっくり書けば、中国出資による日中合作のスタイル…といったところだろうか。すでに2シーズンが放送された『霊剣山』シリーズは日本のスタジオディーンが実制作をし、制作委員会に名を連ねる形となっている。海外アニメを見ているという印象はそこにない。日本のほかのアニメと変わらないテイストだ。

これまでの製作作品は、主に中国で人気のコミックなどを原作とした作品が多かった。『霊剣山』『銀の墓守り』。現在放送中の『縁結びの妖狐ちゃん』もそうなる。そのジャンルの人気が高いのか伝奇物やアクション物が多い印象だ。