Jun 18, 2022 column

芦田愛菜&宮本信子の“57歳差”シスターフッド映画 BL愛が人生を豊かにする『メタモルフォーゼの縁側』

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人生の先輩に触発され、高いハードルに挑むうらら

「私がうららさんだったら、自分で漫画を描いちゃうかもしれないわ」

すっかりBL漫画の虜になった雪は、BL道の先輩であるうららにそう伝える。ネガティヴ思考のうららはつい「才能がないんで」と答えるが、続く雪の台詞がうららの人生を大きく揺さぶることになる。

「才能がないと、漫画描いちゃダメなの? 人って、思ってもみないふうになるものだからね」

人生の大先輩である雪の言葉に、うららは衝撃を受ける。それまでもノートの片隅に、『君のことだけ見ていたい』の作者・コメダ優(古川琴音)の画風を真似て、美少年キャラを描いていたうららだったが、自分でオリジナルの漫画を描くなんて無理だと思い込んでいた。雪の言葉に触発され、うららは一念発起することになる。

自分の手で創作漫画を描き上げてみよう。目指すは、自費出版即売会の一大聖地であるビッグサイトで開催されるコミックマーケット。自分に高いハードルを課すことで、うららはついに走り出す。

正直なところ、うららの描く漫画はうまくない。でも、うららには同級生たちや担任教師、母親にもずっと伝えることができずにいる、形にならない想いが山のようにあった。受験勉強そっちのけで、うららはがむしゃらに描くことになる。ようやく描き上げたデビュー作のタイトルは、『遠くから来た人』。地球で暮らす男の子と宇宙からやってきた美少年とが街で出会い、心を通い合わせるという淡いBLものだ。テクニックはないが、この処女作にはうららの人を想う純粋な気持ちが泉のように溢れ出している。

うららが苦心して描き上げた『遠くから来た人』は、当然ながら人目にはほとんど触れることなく、コミケは終わってしまう。でも、どれだけの人に読まれたのかは関係ない。うららが初めて自分の力で、ひとつの物語を完成させたことが何よりも重要だった。うららは自分のへっぽこさ加減と全力を出し尽くした虚脱感がないまぜとなり、雪の前でボロボロと泣き出してしまう。主人公たちが素直に自分の感情をさらけ出せるのも、シスターフッドもののよさかもしれない。