Jun 18, 2022 column

芦田愛菜&宮本信子の“57歳差”シスターフッド映画 BL愛が人生を豊かにする『メタモルフォーゼの縁側』

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女性同士の友情と連帯を描く「シスターフッドもの」と呼ばれるジャンルがある。スーザン・サランドン&ジーナ・デイヴィスが主演した『テルマ&ルイーズ』(1991年)や、青春コメディ『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019年)など、良質のハリウッド映画が作られてきた。日本では門脇麦と水原希子が共演した『あのこは貴族』(2021年)が、シスターフッドムービーに数えられる。

近年ますますクローズアップされるシスターフッドの世界に、注目の新作映画が加わった。年齢差が57歳になる芦田愛菜と宮本信子がW主演した『メタモルフォーゼの縁側』だ。鶴谷香央理の原作コミック全5巻は、「このマンガがすごい!2019 オンナ編」第1位に輝いており、本作はその実写映画化となる。世代の異なるシスターフッドものという点もユニークだが、2人が友情を培うきっかけとなるのは、なんとBL漫画。BL=ボーイズラブに夢中になった2人が世代をこえて共感しあい、お互いの人生をより豊かなものへと変えていく。

BL界で人気の漫画家・じゃのめが、原作コミックをリスペクトした上で映画用にリファインした劇中漫画『君のことだけ見ていたい』、本作の公開日と同じ6月17日(金)から配信されるHuluオリジナルドラマ『君のことだけ見ていたい』も話題を呼びそうだ。

BL漫画が引き寄せた2人の出会い

芦田愛菜にとっては、芥川賞作家・今村夏子原作の『星の子』(2019年)に続く実写映画主演となる。芦田演じる佐山うららは、団地暮らしの高校2年生だ。将来の進路をそろそろ決めないといけないが、シングルマザーの美香(伊東妙子)は仕事で忙しいため、書店でバイトしながら家事も分担してやっている。フツーの女子高生のように青春を謳歌できずにいるうららだった。

そんなうららにとって、唯一の趣味といえるのがBL漫画だった。いちばんのお気に入りは、月刊誌に連載されている『君のことだけ見ていたい』。登場人物の美少年・佑真と咲良とのピュアな関係に、恋愛未経験のうららはときめいていた。そんな折、たまたま書店を訪れた老婦人・市野井雪(宮本信子)が『君のことだけ見ていたい』の単行本の表紙を気に入って、BLと知らずに購入する。以来、雪はうららにとって注目の人となる。雪が『君のことだけ見ていたい』の続刊を買い求めたことから、2人の距離はグングン縮まっていく。

雪とうららは連絡先を交換し、定期的に会うことに。うららにしてみれば、誰にも打ち明けられなかったBL趣味だけに、人生経験豊富な雪と『君のことだけ見ていたい』の感想を語り合えることはたまらない喜びだった。夫に先立たれ、ひとり暮らしをしている雪にしても、孫のような年齢の新しい友達ができたことがうれしい。居心地のよい喫茶店や雪の自宅で過ごす時間が夢のように過ぎていく。

咲良と佑真は二次元上の架空のキャラクターだが、うららと雪にとってはお互いを引き合わせてくれた大切な存在となっていく。