Jun 18, 2022 column

芦田愛菜&宮本信子の“57歳差”シスターフッド映画 BL愛が人生を豊かにする『メタモルフォーゼの縁側』

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走り方の違いで心情の変化を表現する芦田愛菜

年間100冊の本を読破するという読書家としても知られる芦田愛菜だけに、書店員役がとてもよく似合う。原作では両親は離婚している設定となっており、うららは人づきあいがあまり得意ではない。本に囲まれ、本好きな人たちが通う書店のほうが、学校よりも過ごしやすそうだ。

また、子役時代から演技のうまさで定評があった芦田だが、本作では子役時代のかわいらしい表情は控え、BL漫画好きであることを公言できずにいる陰キャラになりきっている。喜怒哀楽を記号的に演じることなく、物語のシチュエーションや共演者の演技に合わせ、自然な表情を見せている。

うららの数少ない同世代の友達といえるのは、同じ団地で育った幼なじみの紡(高橋恭平)。以前は親しく会話する仲だったが、紡はイケメン高校生となり、キラキラ女子の英莉(汐谷友希)と交際している。英莉は美少女で勉強もできるので、劣等感の強いうららは一緒には並びたくない。ある晩、英莉と歩いている紡から声を掛けられるが、うららは逃げ出すように走り去ってしまう。その後ろ姿はまるで不審者のようだ。

だがこの一件のあと、うららは雪とすっかり仲良くなり、別人のような軽快なステップを見せるようになる。重力を感じさせない、軽やかな走り方だ。走り方の違いによって、うららの心情の変化が巧みに表現されている。

芦田愛菜とタッグを組む相手が、宮本信子であることも大きい。大ベテランの宮本だけに、より芦田のうまさが引き出されている。ちなみに2人の共演は、『阪急電車 片道15分の奇跡』(2011年)で祖母と孫娘を演じて以来となる。夫・伊丹十三監督の監督デビュー作『お葬式』(1984年)や元祖グルメ映画『タンポポ』(1985年)などに主演してきた宮本が、BLに夢中になる雪役をあくまでも品よく演じている。

夫に先立たれ、娘の花江(生田智子)はノルウェーに嫁ぎ、雪は古い一軒家でのひとり暮らしが続いている。最近は自分ひとりのために食事の準備をするのも億劫になっていた雪だったが、BL漫画のページをドキドキしながらめくり、感想をうららにメールする様子は、“女の子”そのものだ。『君のことだけ見ていたい』のサイン本を手にした雪とうららが、無邪気に写メの撮り合いっこするシーンには、まさにシスター感が溢れている。