Mar 10, 2023 column

シリーズに新章爆誕!チャニング・テイタムの実体験から生まれたストリッパー三部作『マジック・マイク』 

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「マジック・マイク・ライブ」から進化と発展を遂げた“水のダンス”

『ラストダンス』の終盤は約30分にわたってライブショーのシーンが続く。すでに映画を観たひとは、先程紹介した「マジック・マイク・ライブ」の導入部が、ほとんどそのまま映画に取り入れられていたことにお気づきだろう。ソダーバーグも、自分が夢中になったショーからなるべく多くを盗みたかったと語っており、実際に「マジック・マイク・ライブ」のダンサーたちが多数出演し、自分たちの担当演目を披露している。

映画の最大の見せ場となっているのが、マイクが元バレリーナのカイリー・シェイと繰り広げる官能的なウォーターダンス。「マジック・マイク・ライブ」では、大量の水を使うために狭い枠の中で踊っていたが、『ラストダンス』ではステージ全体が水で満たされる中をテイタムとシェイが動きまくる。

実は振付担当のアリソン・フォークは、ドラマ「フィラデルフィアは今日も晴れ」の1エピソードや(女性ダンサー役はカイリー・シェイ)、オーディション番組「Finding Magic Mike」で、ウォーターダンスをよりアップデートさせたバージョンを披露してきた。『ラストダンス』のウォーターダンスは、フォークの積年の努力の結晶でもある。そして女性と男性のペアダンスがクライマックスを飾っていることは、本シリーズのテーマの進化を象徴的に示している。

10数年のアップデートが凝縮された『マジック・マイク ラストダンス』

また「女性を幸せにするショー」というコンセプトに合わせて、“承認(パーミッション)”あるいは“性的同意”の必要性が重視されるようになった。本作のマイクは、マクサンドラに乞われて一対一のラップダンスを披露するときも、まず「触っても構わない?」と同意を求め、「居心地が悪いと感じたときは引っ叩いて知らせて」と言う。これは優しさでも礼儀正しさでもない。たとえパフォーマンスの上であっても、女性の安心と安全を優先することが、当然であり、常識であるべき、というメッセージなのだ。

“承認”や“同意”の考えは『XXL』の時はまだ希薄で、「マジック・マイク・ライブ」を経て前景化した。シリーズを通じて、マイクが本質的に善良であることは変わらない。だが一作目の頃のストリップ観や女性への接し方は、もはや前時代的ですらある。これはテイタムやソダーバーグのアップデートの成果だけではない。シリーズの変遷はダンスにも如実に表れており、3本の映画とライブショーのすべての振付を担当してきたアリソン・フォークと彼女のチームの主導的役割も忘れてはならない。

実際、「マジック・マイク・ライブ」のオーディションや舞台裏の映像を観ると、フォークらが口を酸っぱくしてダンサーたちに「これは女性のためのショー」だと伝えている。オーディションでは、ダンスのスキルと同じくらい人柄が選考基準として重要視されたという。相手が同性か異性かに関わらず、他者をリスペクトできる姿勢が必須だったのだ。

『マジック・マイク ラストダンス』には、一作目から変わらぬ顔ぶれが、議論を重ね、挑戦を恐れず、新しい地平を目指したからこそ到達できたエンターテインメントの姿がある。「マジック・マイク・ライブ」にも興味が湧いたけれどラスベガスやロンドンに行くのはハードルが高いというひとも、どうか安心していただきたい。ソダーバーグが腕によりをかけてライブショーのエッセンスを抽出した最高の映像を、今なら映画館の大スクリーンで堪能することができるのだから。

文 / 村山章

作品情報
映画 『マジック・マイク ラストダンス』

 全てを失い落ちぶれたストリップダンサー、マイクの人生をかけた《最後の挑戦》。資産家であるマックスから突然の依頼を受け、運命に導かれるように、ロンドンへ向かう。 その依頼とは、歴史ある劇場で一夜限りのストリップ・ステージを成功させること。 様々な思惑を持った人間たちの反発にあいながらも、世界中のダンサーとともに奮闘する。夢を諦められなかったマイクが目指す、誰も見たことのない究極のステージとは?そして“マジック”を起こしラストショーを成功させられるのか。

監督: スティーブン・ソダーバーグ

出演: チャニング・テイタム、 サルマ・ハエック

配給:ワーナー・ブラザース

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公開中

公式サイト  http://www.magicmike-lastdance.jp/