Mar 10, 2023 column

シリーズに新章爆誕!チャニング・テイタムの実体験から生まれたストリッパー三部作『マジック・マイク』 

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チャニング・テイタムが、18歳の時に地元であるフロリダ州タンパでストリッパーをしていたことは都市伝説でもなんでもなく、世の中に広く知られている。当時のステージネームは“チャン・クロフォード”。本人の発言によれば、8~9ヶ月の間クレイジーな業界に身を置いていたらしい。

2010年頃、テイタムは自身のストリッパー体験をベースにした映画を作ろうと画策。一時はニコラス・ウィンディング・レフンが監督に決まっていたが、スケジュールが合わずに頓挫。テイタムは『エージェント・マロリー』に出演した際に、監督のスティーヴン・ソダーバーグにも話を持ちかけた。ただしテイタムは、まさかオスカー受賞経験のあるソダーバーグが本気でストリッパーの映画を撮ってくれるとは思っていなかったという。

同じ時期、ソダーバーグは幾度となく監督業からの引退をほのめかしていた。テイタムはソダーバーグがある取材で「チャニングのストリッパー映画のためなら引退を撤回するかも」と発言したことを知り、相棒の脚本家リード・キャロリンに背中を押されてソダーバーグに遠慮がちに連絡を入れる。すると「こっちは本気だ、明日会おう、ホットドッグでも食べながら」と食い気味の返事が届いた。2人はハリウッドの名店カーニーズで落ち合い、ついに『マジック・マイク』が具体的に動き出した。

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『マジック・マイク』一作目はほろ苦い青春映画

当初、テイタムとキャロリンは、テイタムの実体験に基づく半自伝的な作品を想定していたが、ソダーバーグは「年齢が異なる2人の男性を主人公にしたフィクションにしよう」と提案。キャロリンは一ヶ月ほどで、刹那的な暮らしを送る人気ストリッパーのマイク(テイタム)が、無軌道な19歳の若者アダム(アレックス・ペティファー)の兄貴分になるストーリーを書き上げた。製作費はソダーバーグとテイタムが自費で賄った。配給は大手のワーナーが引き受けたが、完全なインディペンデント映画だったのである。

CHANNING TATUM as Mike in Warner Bros. PicturesÕ dramatic comedy ÒMAGIC MIKE,Ó a Warner Bros. Pictures release. Photo by Claudette Barius

一作目の『マジック・マイク』 (2012) は、ハイテンションなストリップショーにブチ上がりつつも、ドラマ部分は青春の暗い側面に焦点を合わせており、男性ストリッパーという職業に対しても決して肯定的とはいえない。糾弾も否定もしてはいないが、劇中のストリッパーたちは女性を飯のタネやカモと捉え、自分たちの性的魅力を武器にカネとセックスを得ようとするホモソーシャルノリの集団として登場する。

最終的に、自分の生き方に疑問を抱いたマイクは、ストリップの世界と決別し、ショーの最中に仲間たちに黙ってクラブを去る。ソダーバーグ、テイタム、キャロリンは『ブギーナイツ』『シャンプー』『サタデー・ナイト・フィーバー』『スター誕生』 といった作品を引き合いに出していて、そのどれもがほろ苦い余韻を残す作品なのも興味深い。

『マジック・マイク』が公開されると、関係者も驚く大ヒットとなった。製作費700万ドルに対して世界興収1億6700万ドル(約224億円)。製作費の約24倍を稼ぎ出したことになる。通常のソダーバーグ作品の興収が製作費の1.5~2倍程度であることを思えば、いかに異例の事態だったかがわかる。

また『マジック・マイク』に(主に女性の)観客が詰めかけ、劇中のストリップダンスに喝采を送ったことは、テイタムら製作チームにとって認識を改めるきっかけとなり、第二作『マジック・マイクXXL』へと繋がっていく。