映画の枠を飛び越えたライブショー「マジック・マイク・ライブ」
『XXL』の世界興収は1億1781万ドル(約160億円)。前作を下回りはしたものの、製作費が1480万ドルであることを思えば文句なしのヒットだった。そしてテイタムと脚本のキャロリン、振付師のアリソン・フォークは、映画を飛び越えた“新しい『マジック・マイク』”の創造に取りかかる。2017年3月にラスベガスのハードロックホテルでオープンした常設ライブショー「マジック・マイク・ライブ」である(現在はサハラ ラスベガスに移転)。
「マジック・マイク・ライブ」は、キャバレースタイルのパフォーマンスショーで、客席がぐるりとステージを囲んだ会場は『XXL』にあやかって「クラブ・ドミナ」と名付けられ、公式サイトには「女性がいつでもトップにいる場所」と紹介されている。
ショーが始まると、男性MCの呼び込みで、オラオラ感のある消防士、カウボーイ、水兵ら男性ストリップの定番キャラが登場する。まさに『マジック・マイク』の一作目がやっていたことだ。しかし客席から上げられた女性がMC役を奪い取り、天井から降りてきた金色のマイク(=マジック・マイク)を通して「真に女性が求めているものをよこせ」と要求する。ストリッパーたちはワイルドだがジェントルな存在に変身し、女性の欲望に応えるため、セクシーでパワフルで可笑しくて美しい超絶パフォーマンスを繰り広げるのだ。
この導入部は、共同で演出を手がけたテイタムとアリソン・フォーク、そしてショーのプロデューサーでもあるキャロリンの、「従来の男性ストリップから脱却し、誰も脅かすことのないピースフルな空間を生み出そう」という宣言でもある。そしてこのショーを観て誰よりも感銘を受けた人間がいた。「マジック・マイク・ライブ」にはほぼノータッチでいた、スティーヴン・ソダーバーグである。
ライブショーに感銘を受けたソダーバーグの決意
ソダーバーグは、テイタムらのチームとは別に『マジック・マイク』のブロードウェイミュージカル版の開発に着手しており、公演時期も発表され、すでに一部のチケットも販売されていた。しかしソダーバーグはラスベガスの翌年にオープンした「マジック・マイク・ライブ」のロンドン公演を観た直後に、ミュージカル版の中止を決める。そしてテイタムらにもう一本映画を作りたいと呼びかけたのだ。
ソダーバーグの望みは、マイクに「マジック・マイク・ライブ」のようなショーを作らせることだった。そしてそのためには、物語の中心に女性のキャラクターを置くことが必須だった。三作目の映画『マジック・マイク ラストダンス』のマイクは40代。世界的パンデミックの余波で夢を注いだビジネスに失敗し、失意の中にいた。しかし富裕な女性マクサンドラ(サルマ・ハエック)に「ダンスで女性を幸せにする」才能を再発見され、彼女が所有するロンドンの劇場で上演するライブショーの演出を任されることになる。
マクサンドラは、マイクの雇い主であり、微妙な緊張関係をはらんだ恋の相手であり、そしてマイクがショーを作り上げるための導き手となる。マクサンドラの構想はほぼ「マジック・マイク・ライブ」と一致している。最高のダンサーたちにストリッパーのスキルを会得させて、女性たちの望みを叶える最高のエンターテインメントを生み出すこと。マイクとマクサンドラは、互いを刺激しながら、たった一夜限りの魅惑のショーを創り上げていくのである。