“男性ストリッパーの役割”を再定義した第二作『XXL』
第二作『マジック・マイクXXL』(2015) の製作が決まった時期、ソダーバーグはかねてからの宣言通り(一時的に)監督業から退いていた。代わりに監督を務めたのは、ソダーバーグ作品で長年プロデューサーや助監督を務めてきたグレゴリー・ジェイコブズ。脚本のキャロリン、振付のアリソン・フォークといった主要スタッフに加えてソダーバーグもガッツリ参加しており、なんと変名で撮影監督と編集を担当している。ポジションは変わっても前作と同じチームが再結集したのだ。
『XXL』は、前作とは打って変わって明るい空気が漂うロードムービーだ。ストリッパーから足を洗い念願の家具ビジネスを始めたマイクが、昔の仲間からビーチリゾートで開催されるストリップ大会に誘われ、3日間の週末旅行に出かける。全員が中年になり、盛りを過ぎた自覚があって、これが最後のお楽しみだと全力でハシャぐ。もし“遠足映画”というジャンルがあるなら『XXL』はその代表作にふさわしい。
『XXL』は男たちの友情を描いた微笑ましいコメディだが、製作陣にはもうひとつの思惑があった。前作のパフォーマンスがあれだけ支持されたのなら、今度は従来の男性ストリップの概念をイチから見直して、さらに女性を喜ばせるショーにアップデートできないかと考えたのだ。
劇中の旅を通じて、マイクと仲間たちは自分たちが先入観にとらわれ、お仕着せのストリップルーティンに甘んじていたことに気づく。そして真に自分らしいパフォーマンスを追求する過程で、「自分たちの使命は、女性を食い物にするのではなく、彼女たちを笑顔にすることではないか?」と考え始めるのだ。
#MeTooに先んじた男たちの価値観アップデート
『XXL』では、マイクたちの女性観、ストリップ観に影響を与える女性キャラクターが大勢登場する。とりわけ重要な役割を果たすのが、女性専用の会員制ストリップクラブ「ドミナ」のオーナー、ローマ(ジェイダ・ピンケット・スミス)だ。ローマは女性客を“クイーン”、ストリッパーを“キング”と呼ぶ。“キング”は“クイーン”に奉仕し、彼女たちを幸せにすることが義務づけられていて、マイクたちはその姿勢に大いに刺激を受けることになる。
また、豪華な屋敷で家飲みに興じている有閑マダムたちとあけすけに語らうシーンも、マイクたちが女性たちの本音を学ぶ場となる。マイクたちが目指すストリップダンスは、もはや現実のストリップとは別種のものへと発展していく。ただし『XXL』はマイクと仲間たちの自己実現が主軸であって、女性キャラはマイクたちを触発する脇役に過ぎないともいえる。
しかしハリウッドで#MeToo運動に火がついたのは2017年のハーヴェイ・ワインスタイン告発からであり、さかのぼること3年前に『XXL』が公開されていたことは、改めて評価されていいのではないだろうか。
実はローマの役は、初期脚本ではジェイミー・フォックスを想定して書かれていた。ところがフォックスが降板してしまい、キャロリンの発案で急遽女性キャラに書き換えられたのだ。もしフォックスが演じていたら『XXL』で導入された「女性のため」というコンセプトはこれほどの効果は発揮できず、シリーズを大転換させることもなかっただろう。ときに歴史は偶然によって動かされるのである。