国会でも問題視された巨匠からのメッセージ
『バトル・ロワイアル』(2000年)
同じクラスに通う中学生同士が、最後のひとりになるまで殺し合う――。衝撃的な設定から、高見広春のベストセラー小説を深作欣二監督が映画化した『バトル・ロワイアル』は大きな波紋を呼んだ。劇場公開前には、国会でも暴力的な内容が問題視されるほどの騒ぎとなった。
長引く平成不況、凶悪化する少年犯罪といった時代の空気とシンクロし、R15指定ながら興収31億円を超える大ヒット作に。本作に出演した藤原竜也、柴咲コウ、栗山千明、安藤政信らも売れっ子俳優となる。
10代のときに戦争を体験していた深作監督は、先行きの見えない不透明な時代を生きる若者たちに向けたサバイバルドラマとして本作を撮り上げた。暴力を全肯定した内容ではなかったものの、ハリウッド映画『ハンガー・ゲーム』(12年)をはじめ、少年少女たちが殺人ゲームを繰り広げるという類似作が続々と現われることになる。一冊の小説とその映画版が、世界に与えた影響は大きかった。
深作監督は病身を押して続編『バトル・ロワイアルII 鎮魂歌』(03年)の撮影に挑み、撮影なかばで72歳の生涯を終える。『バトル・ロワイアル』は平成時代にリブートされた、もうひとつの『仁義なき戦い』(73年)だったのかもしれない。
それでも子どもたちは毒親を憎めなかった
『誰も知らない』(2004年)
『世界の中心で、愛をさけぶ』(04年)や『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年)などが大ヒットを記録し、ゼロ年代は邦画バブルに沸いた。そんな中、異彩を放ったのが「巣鴨子ども置き去り事件」を題材に、是枝裕和監督が1年がかりで撮り上げた労作『誰も知らない』だった。当時14歳だった柳楽優弥は本作で俳優デビューし、カンヌ映画祭最優秀男優賞を史上最年少で受賞する。
本作の中で描かれているのは無縁社会、ネグレクト、毒親といった社会問題の数々。明(柳楽優弥)たち4人兄妹は、シングルマザーのけい子(YOU)とアパートで暮らしていたが、戸籍はなく、小学校にも通わせてもらえない。やがて、けい子は仕事先から戻らなくなり、明たちは自活することを余儀なくされる。
大人の目線から見れば、病気や怪我を負っても病院に行くことすらできない子どもだけの生活は悲惨極まりないものにしか思えないが、厳しい環境の中でも子どもたちが成長していく姿を、ベテランカメラマンの山崎裕は繊細に映し出している。子どもたちのたくましさを感じさせる一方、たまにしか姿を見せない母親を慕い続ける表情がせつない。
是枝監督は本作の後も、『そして父になる』(13年)や『万引き家族』(18年)で、子どもの視点を交えながら現代社会の問題点をあぶり出すことになる。その後も社会格差はますます進み、より厳しい現実が子どもたちの前に立ちはだかっている。
法廷画家の目から見つめた激動の90年代
『ぐるりのこと。』(2008年)
バブル経済崩壊後の日本社会を背景に、ある夫婦(リリー・フランキー、木村多江)の10年間の歩みを綴った橋口亮輔監督の秀作。リリー・フランキー扮する法廷画家の目線を通して、宮崎勤事件、雑司ヶ谷児童殺害事件、地下鉄サリン事件、小学生無差別殺傷事件といった1990年代から2000年代初頭に起きた凶悪犯罪の数々が物語に織り込まれている。第二の敗戦とも呼ばれたバブル崩壊と阪神・淡路大震災によって、それまでの社会構造と価値観が90年代に大きく変動したことが分かる。
リリー・フランキーは自伝的小説『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』がミリオンセラーになるなど、作家&イラストレーターとして知られていたが、本作をきっかけに本格的に俳優業をスタートさせる。うつを患う妻役の木村多江も、多くの映画賞に輝いた。リリー&木村が劇中で演じた夫婦が平成という時代の中で失ったものと、新たに手に入れたものは何だったのか、もう一度じっくりと見直したい。