Apr 28, 2019 column

平成から令和へ――最後の三日間、何を観る?平成を感じさせる日本映画10選

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満島ひかり、安藤サクラら新世代女優たちの覚醒!
『愛のむきだし』(2009年)

ベルリン映画祭カリガリ賞・国際批評家連盟賞をダブル受賞した『愛のむきだし』は、上映時間237分という長さにまず驚くが、物語が始まるとヒロイン・ヨーコを演じる満島ひかりの野生的な魅力、新興宗教団体の幹部コイケを怪演した安藤サクラの存在感に圧倒される。気がつくと、2010年に惜しくも解散した「ゆらゆら帝国」が歌うエンディング曲「空洞です」が流れることになる。ロン毛時代の綾野剛、まだ幼い表情の松岡茉優らが端役で出演しているなど、さまざまなサプライズを見つけることもできる。

鬼才・園子温監督のブレイク作であり、ゼロ年代を代表するインディペンデント映画である本作が描いているのは、崩壊してしまった家族制度や形骸化した宗教の代わりにこれから何を信じて生きていけばいいのかという現代人に課せられたテーマだ。容易には答えが見つからない問いだが、既成の価値観にとらわれることなく、傷つきながらも前のめりに生きる主人公・悠(西島隆弘)のひたむきさが奇蹟を呼び寄せることになる。

本作はDVD化されてから人気に火が点き、園監督は『冷たい熱帯魚』(11年)で埼玉愛犬家連続殺人事件、『恋の罪』(11年)で東電OL殺人事件など、平成時代に起きた凶悪犯罪をモチーフにした問題作を次々と発表。さらに綾野剛主演作『新宿スワン』(15年)で興行面での成功も収める。王道なき平成時代において、園監督はインディーズとメジャーとのボーダーラインを突き破ってみせた。

昭和の“負の遺産”との孤高の闘い
『沈まぬ太陽』(2009年)

山崎豊子が膨大な取材をもとに1995年~99年に「週刊新潮」で連載した長編小説を、上映時間202分の大作として映画化。原作小説の連載時から主人公・恩地役を熱望した渡辺謙主演作として完成した。

第一部で描かれる85年に起きたジャンボ機墜落事故は、犠牲者520名を出した昭和の大事件。『クライマーズ・ハイ』(08年)でも描かれた御巣鷹山の惨劇が、事故機搭乗者、遺族の目線から、生々しく再現されている。

第二部では組合運動に参加していたために会社上層部から疎まれていた恩地(渡辺謙)が、放漫経営によって淀みきった航空会社を浄化させるために奔走する姿をクローズアップしている。ナショナル・フラッグ・キャリアという立場にあぐらをかいていた大企業が、時代の変化に対応できずに沈んでいく様子は、第一部の墜落事故と同じくらいにリアルだ。

左遷先のケニアで野生のアフリカ象を追っていた恩地だが、帰国後は昭和の“負の遺産”と化していた大企業の闇と対峙することになる。採算効率や収益性ばかりが求められがちな現代社会において、企業モラルやひとりの人間としての道徳心の大切さを痛感させられる。

名誉毀損で訴えられかねないリスクを負っての映画製作だったが、本作が公開された翌2010年、モデルとなった企業は経営破綻から会社更生法を申請することになった。

どの視点から見るかで、まるで変わる多元社会
『告白』(2010年)

幸せを測る尺度が平成になって大きく変わったことを『嫌われ松子の一生』(06年)で描き出した中島哲也監督が、“イヤミスの女王”と呼ばれることになる湊かなえのデビュー小説を映画化。スタイリッシュな映像で、10代の少年少女たちの心の闇に迫った。東野圭吾や吉田修一らのミステリー小説の映画化が相次ぐ中、ひときわ記憶に残る1作となった。

本作の面白さのひとつに、幼い娘を失った元担任教師(松たか子)、後任となった熱血教師(岡田将生)、成績優秀な生徒A、引きこもりの生徒B……と物語の視点が変わることで世界はまったく異なって見えるという多元構造が挙げられる。誰の視点によるかで世界が大きく変わるこの構造は、吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』(12年)でも使われており、どちらも少年少女たちが通う学校内でのスクールカーストが浮き彫りとなる。子どもたちの世界には、すでに格差社会が存在しており、彼らは実社会に出る前から人間関係で疲弊しているようだ。

校内カーストにひとり抗うクラス委員長・美月を演じた橋本愛が、強く印象に残る。暗闇からさっそうと現われるシーンの橋本愛は、言葉を失ってしまうほど美しい。ひとりの少女は、天使にも悪魔にもなりうる両面性を秘めていることが映像で物語られている。

2009年からメンバーの人気投票をイベント化するようになったAKB48の楽曲が挿入歌として使用されているが、これも中島監督ならではのアイロニーだろう。