Apr 28, 2019 column

平成から令和へ――最後の三日間、何を観る?平成を感じさせる日本映画10選

A A
SHARE

“承認欲求”が生み出した平成のモンスター
『ヘルタースケルター』(2012年)

人気漫画家・岡崎京子が1995年に発表した同名コミックが原作。全身の整形手術を受けて、絶世の美女へと生まれ変わったファッションモデルのりりこ(沢尻エリカ)が時代の寵児となり、そして転落していく姿を描いている。蜷川実花監督による毒々しい極彩色の映像もインパクトがある。

「別に……」発言で騒がれた沢尻エリカの復帰作として、彼女の体を張った演技に公開時は話題が集中したが、改めて見直すと誰にも振り向いてもらえないひとりの女の子が自分の存在を世間に認めさせたいと願う“承認欲求”を主題にした平成ならではの物語であることに気づく。

美しさと自信を手に入れたりりこは、自分の肉体さえも武器にして芸能界でのし上がっていく。だが、消費社会は常に新しい刺激を求め、芸能人としてのりりこの賞味期限は瞬く間に終わりを迎える。一見すると悲劇と思いがちな本作だが、注目すべきはラストシーンだ。頂点から転がり落ちていったりりこは、どん底世界でより妖しく、誰にも真似できない輝きを放つことになる。

どこまでも自分の欲望に忠実に生きようとするりりこは、平成時代を代表するモンスターのひとりだと言えるだろう。

3.11の化身として生まれ変わった破壊神
『シン・ゴジラ』(2016年)

1995年~96年に放映されたSFアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビ東京系)で大ブームを巻き起こした庵野秀明監督が総監督を務めた特撮映画。核分裂をエネルギー源とする巨大生物ゴジラが海から上陸したことで、パニック状態に陥る東京が描かれている。

本多猪四郎監督が撮ったシリーズ第1作『ゴジラ』(54年)は、広島・長崎への原爆投下からから9年、「第五福竜丸」の水爆被曝事故の同年に製作・公開された。初代ゴジラは核兵器のメタファーとして、敗戦から復興したばかりの東京を震撼させた。対するシン・ゴジラは、2011年の東日本大震災によってメルトダウンした福島第一原発事故の恐怖を具現化した存在として再誕した。

自衛隊や政治家たちの動きを追ったポリティカルサスペンスとしてのリアリティーに加え、進化した生命体であるシン・ゴジラが第一形態(東京湾)、第二形態(蒲田)、第三形態(北品川)、第四形態(鎌倉)……と変化していく過程にファンは熱狂。『エヴァンゲリオン』で描かれた人類補完計画とシン・ゴジラとの関係性、シン・ゴジラの初期形態は日本神話に登場するヒルコを彷彿させるなど、メディアやSNSでさまざまな説が飛び交い、リピーターが続出することになった。

7月に公開された『シン・ゴジラ』は興収82.5億円というメガヒット作となったが、同年8月には新海誠監督の劇場アニメ『君の名は。』が公開され、国内興収250.3億円(世界興収3億5800万ドルは邦画第一位)という驚異的な数字を残した。どちらも未曽有の大災害に直面する物語であり、東日本大震災が社会に与えた衝撃の強さを感じさせる。

2020年には福島第一原発事故を正面から描いた『Fukushima 50』の公開が予定されている。元号が変わっても、五輪が開催されても、原発事故はまだ解決していないことを忘れずにいたい。

文/長野辰次
イラスト/Sidhe