朝ドラに着物が出ると喜ばれる
──アメリカ演劇を専攻されていたんですか。以前制作された朝ドラ『つばさ』(09年)が演劇的なのもそのせいなのでしょうか。
そうですね、舞台系の役者さんが多く出ていましたし。なぜか、突然、ミラーボールが下がってきてサンバダンサーが踊りだすなど、小劇場のような演出があったりして。ただ、ちょっと時代を先取りしすぎたのかもしれませんね(笑)。
──あれは貴重な作品ですね。
ですねえ。
──あれから‘朝ドラ’やっていらっしゃらないんですか。
そうですね、だから、9年ぶりですかね。
──後藤さんの朝ドラ歴は、橋田壽賀子先生の『春よ、来い』(94年)の演出をやって、『どんど晴れ』(07年)、そして『つばさ』ですか。
いえ、『京、ふたり』(90年)、『女は度胸』(92年)でも助監督しながら数本演出させてもらいました。
──朝ドラを熟知しているのでしょうね。
そんなことはないです(笑)。ただ、『どんど晴れ』のとき知った衝撃的な事実があります。そのときのチーフPが最初に「この朝ドラは受けるよ」と言ったんですよ。「なんでですか?」と聞いたら、「着物がいっぱい出るから」って。「そんなアホな」と思ったのですが、実際、放送がはじまったら、「宮本信子さんの着物が素敵」にはじまって「草笛光子さんの着こなしが素晴らしい」なんていう内容の投書がいっぱいありました。そして、視聴率も良くて。ドラマの内容ももちろん大切ですけれど、視覚的にも楽しめることが大事なのだと学びました。『わろてんか』では、第6週目以降、てんたちは一回、どん底の生活に陥るので、京都編と比べると、衣装が豪華ではなくなってしまうんですね(笑)。でも、鈴木京香さん演じるお姑さんは粋な着物姿ですし、着物好きの方々にもまだまだ楽しんでいただけるのではないかと思います。
てんを取り巻く3人の男たちが物語のキーポイント
──いま、どれくらい撮影は進んでいますか(取材は9月の中旬、ちょうど、『ひよっこ』と『わろてんか』の交代式があった頃に行われた)。
いま、10、11週くらいを主に撮っています。大阪で寄席を開業して、紆余曲折ありながら、事業の規模を拡大してきているところでしょうか。
──寄席を開業してからの出来事がドラマの中心になりますか。
そうですね。6週から最後の26週まで、寄席が主舞台になります。
──さきほど、ラブがドラマの核になっているとおっしゃられましたが、もう少し詳しく教えてください。
今回、てんを取り巻く3人の男性を設定しました。まず、藤吉という夫を松坂桃李さんが演じています。ほかに、風太という幼馴染の丁稚を濱田岳さんが、伊能栞という青年実業家を高橋一生さんが演じています。風太は、幼い頃からてんがなにくれとなく気にかけてくれていたので、彼女に恩義を感じていて、自分はてんを守る、ある種の用心棒だと思い込んでいます。大人になってもその気持は変らず、てんのことも支え続けます。ちょっと不器用な人物ですね。不器用にもかかわらず、いつも一番ふざけている男ですが、それがすごくいいんですよ。そして、もうひとりは高橋一生さんが演じている伊能栞という人物。てんは昔の大店の娘ですから、許婚が決められていて、それが彼です。でも、てんとは結婚しませんが、自分の信念に向かって行動するてんのことが気になっていく。後に、藤吉と親友になり、そういう立場で、てんを支えていきます。