役者を大事にしたくて、時間が進められなかった
──当初、64年から74年くらいまでの10年間くらいを描く予定だったということで、本当はヒデとの夫婦生活も描かれる予定だったのですか?
はい、荻窪当たりで小さな洋食屋を営んでいる話を描きたかったですね。あの頃ちょうど、中央線沿線の郊外に人が増えて、街が出来上がっていった時期なのですよ。
──それはパート2で書くみたいな。
ぜひ、やりたいですね。
──続編を見据えた上の、後半の展開ですか?
いや、冒頭何週間分か書いたところで、10年の話は撤回しました。やろうと思えば、途中、2年経ちましたって書けばいいので、10年分書けるといえば書けますが、そこを取りこぼしていく話じゃないなあって思い直しました。それと、奥茨城編を書いているときに、子役ふたり(宮原和、髙橋來)を変えたくないという気持ちになって。「あれから2年」となって、みね子が家に帰ると、知らない女の子と男の子がいるっていうのが、忍びなくて。ドラマでは普通のことなんだろうけど、なんか良くてね、あの二人が。
──おかげで、ゆったりした時間が流れて、視聴者はいつの間にか、その心地よいリズムに慣れていって、終わらないで!と思うようになりました。
ありがとうございます。クライマックス感がないのに、どうやって終わるのかって、みんな気にしてくださいましたね。4年間という短い年月の物語にした時点で、重箱と1万円の伏線回収は、最終週にやれたらいいかなと思っていました。
──重箱は出てくるだろうと誰もが想像していたものの、こんなにさりげないんだって、予想の斜め上を行く展開でした。
物語を求めている人にとって、話がちっとも進んでないって気持ちがするのもわかりますが、僕自身は、そういうときが好きだったりするので。それはどうしようもない性なんですよね(笑)。
──作家の個性はあっていいと思います。
ですよね。丁寧に描きたいと思う役者さんだらけだったということもあります。
──ヤスハル(古舘佑太郎)があんなに美味しい役割になるとは驚きました。
不憫でかわいいっていうのを目指してみました(笑)。
──それにしても、世津子(菅野美穂)救出作戦に尽力したのに、あそこまで労われないなんて……。
あれは台本ではもうちょっとあったんですよ。「ヤスハル大丈夫かな」っていうのが。でも、カットされてしまい、結果的にそれで美味しくなったという(笑)。
──ミュージシャンとしての古舘さんを巧く使っていたのも良かったです。宗男役の峯田和伸さんといい、『ちゅらさん』の鮎川誠さんにしても、ミュージシャンがよく出てきます。
ミュージシャンを出すのは好きですね。でも、ミュージシャンだったら誰でもいいわけではないです。まずその人の音楽が好きなこと。あとなんとなく勘でやりすぎない人を選んでいますね。品があるっていうか。ミュージシャンにかぎらず、お笑いのやついいちろう(元治役)君にしてもね。ここで笑わせてやろうと思っている人だと、それは役じゃないから……と観ていて気持ちが引いてしまうので、そうじゃない人たちに出ていただいていますね。