Dec 30, 2017 column

「べっぴんさん」「ひよっこ」「わろてんか」2017年の朝ドラヒロインは脱・元気

A A
SHARE

新たなヒロイン像に、新たな相手役

『べっぴんさん』の場合、より高度な挑戦をしていたといえるだろう。口下手な主人公ゆえに、笑おうと言葉にしていたわけではなく、すみれのつくった手芸品や洋服、後半の赤ちゃんたちの仕草など、見ているとなんだか心が癒やされ、自然と口角が上がっているというふうに作ってあった気がする。

『べっぴんさん』と『わろてんか』はヒロインの相手役も大人しい。とりわけ『わろてんか』の藤吉(松坂桃李)は、朝ドラ名物ダメ男がアップデートされ、飲む・打つ・買うというようなハメを外すこともなく、ダメさに面白みのない男として、視聴者を戸惑わせた。

『ひよっこ』の相手役(磯村勇斗)も、勤勉な善人で、ヒロインと同じく平凡だ。これまでの朝ドラだったら、初恋の御曹司(竹内涼真)と反対を押し切って結ばれて、嫁ぎ先で苦労してという波乱万丈なドラマが描かれそうなところ、それを回避したのだった。ヒロインだけでなく、相手役もそろって大人しめ。これが2017年の朝ドラの特徴だ。

「がんばれ」と言う言葉をかけられると辛くなる人がいるという。頑張れば報われる。元気に前を向いて。そんなことが空疎に響くほど、人生に疲れ、途方に暮れてしまったら、どうしたらいいのだろうか。言葉ももちろん大事だけれど、SNSの発展によって、直接的な言葉がひとを刺激したり煽ったりすることが増えたからこそ、非言語のコミュニケーションや、結論を求めない、あまり意味のない会話や、直接的でない、ひねった表現を工夫することなども忘れずに。2017年の朝ドラヒロインたちから、そんなことを感じさせてもらった気がしている。『明るく、元気に、さわやか』でなくてもいい、『何かを成し遂げる』ことなくてもいい、そんなヒロインの形が受け入れられるようになってきたのかもしれない。少なくとも2017年は。

2018年も、いい年、いい朝でありますように。

木俣冬

文筆家。著書『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説 なつぞら」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など。 エキレビ!で「連続朝ドラレビュー」、ヤフーニュース個人連載など掲載。 otocotoでの執筆記事の一覧はこちら:[ https://otocoto.jp/ichiran/fuyu-kimata/ ]