2017年のヒロインはそろって大人しかった
ちょっと待って。よく考えてみたら、『ひよっこ』に限ったことではなく、2017年の朝ドラのヒロインは、そろって大人しく、それほど明るく、元気に、さわやかって感じでもない。 『べっぴんさん』のすみれは、「なんか、なんかな……」が口癖で、思ったことをはっきり言葉に出来ないが、手芸が好きで、そういう手作業への集中力は並々ならぬものがある人物だった。ついでに言うと夫(永山絢斗)も口下手で不器用な人。 『ひよっこ』のみね子は、争いを好まず、その場を笑ってやり過ごしてしまうような子。心の中でやや毒を吐くこともあるが、自分のためより他人を優先してしまうお人好しだ。 『わろてんか』のてんは、京都の薬種問屋のお嬢様で、世間知らずで、ゲラ(笑い上戸)という設定ではあるが、ひたすら夫ファースト。夫(松坂桃李)の夢の実現のために行動し、着物を6年新調しないでへそくりしているような良妻だ。
悲しみを笑いに変えるヒロインたち
『あさが来た』(16年)のあさ(波瑠)のように自己実現のためにグイグイ前進していったり、『ごちそうさん』(13年)のめ以子(杏)のように、小姑イジメに敢然と立ち向かったり、『カーネーション』(11年)の糸子(尾野真千子)のように男勝りであったりしない。『あまちゃん』のアキ(能年玲奈 現・のん)のように、田舎で暮らすようになったら元気な子に変身したりもしない。2017年の3人は、ハキハキと声を張り上げたり、仁王立ちしたり、全力で飛んだり跳ねたりしない。その代わり、彼女たちは、理不尽で悲しい状況に、力で対抗するのではなく、それを笑顔に変える努力をする。いわゆる、童話『北風と太陽』作戦だ。『ごちそうさん』も食べ物でそれをしているが、いかんせん、グイグイキャラなのである。
とりわけ、『ひよっこ』と『わろてんか』にその兆候が著しい。『ひよっこ』は、井上ひさしの名作人形劇『ひょっこりひょうたん島』の主題歌の一節「泣くのはいやだ 笑っちゃおう」を通奏低音にして、激しい戦争のトラウマを抱えた叔父(峯田和伸)が愚直なまでに明るくふるまい続ける姿だとか、最終回ようやく家族だんらんを取り戻した主人公一家が「涙くんさよなら」を家族対抗歌合戦で歌う姿だとかに、見ているほうは号泣してしまうというパラドックス現象が起きたほどだ。
現在、『わろてんか』もその意志を、図ってか図らずか定かではないが継いでいる。寄席を経営する話だからダイレクトに「笑い」がテーマになって、家のない者や、貧しい者、家を継ぐ能力に欠けていた者、悲しい境遇に合った者たちが、笑いに救われ、笑いを生業にしていく。ただ、前半、家が破産しそうになって父が自殺しそうになったり、兄が長年の病の末、志半ばで亡くなったりしても、泣きの場面を描かず、笑って回避したことが、賛否両論(やや否が多いかも)を呼んだ。ほんとうに苦しいと、笑うことで現実逃避したくなる真実を追求した狙いはわかる。『ひよっこ』と同じテーマ(泣くのはいやだ笑っちゃおう)を違った見せ方で見せることは至難の技だとも感じたが、その試行錯誤自体は尊いことだとも思う。後半3ヶ月で、どこまで、そのテーマに説得力を持たせられるか興味はある。