1年間、朝ドラは3作ある
朝ドラといえば年間2本、前期NHK東京制作、後期、BKことNHK大阪制作作品というイメージがあるが、厳密には我々視聴者は、1年間で3作見ている。2017年でいえば、神戸で子供服の会社を作った女性(芳根京子)が主人公の『べっぴんさん』(渡辺千穂脚本)の後半、茨城から東京に出稼ぎに出てきた女性(有村架純)が主人公の『ひよっこ』(岡田惠和脚本)全編、大阪で寄席を経営する女性(葵わかな)が主人公の『わろてんか』(吉田智子脚本)の前半である。 あいにく、すでに『べっぴんさん』のことは去年(16年)の記憶として脳みその傍らの朝ドラの棚にしまわれて、目下、棚の外にあるのは『ひよっこ』と『わろてんか』だけという視聴者が多いのではないだろうか。
紅白には『ひよっこ』が
大晦日の『紅白歌合戦』では『ひよっこ』の寸劇が行われることもあって、『ひよっこ』の記憶はまだまだ色濃い。おりしも、現在『わろてんか』で、寄席の業績が順調に伸び、芸人を増やしていくところで、“安来節乙女組“という4人のフレッシュな女の子たちが登場、寮生活を送る彼女たちの親代わりに主人公のてん(葵)がなるというエピソードは、『ひよっこ』の前編をみずみずしく彩った乙女寮編を思い出す。 『ひよっこ』では、いろいろな事情を抱えながら東京に出稼ぎに来た乙女たちが、せっかく水着を買ったのに、あいにく雨が降ってしまい、代わりに映画を見にいくが、夕方、雨が止んだので、せめて海だけを見に行く(男女混合で)青春の一幕は、思い出すたび、にまにまする。
『ひよっこ』の良かったところ
『ひよっこ』は、父親(沢村一樹)が記憶喪失になって女優(菅野美穂)と別人として暮らしていたという最大級に派手な出来事以外、日常の何気ない出来事を綴る趣向で、それが好きな視聴者と、あまり好きでない視聴者に分かれたとはいえ、作品としては高い評価を得て、数々の賞もとり、こうして暮れの『紅白歌合戦』での晴れ舞台も獲得した。 お父さんと女優が出会ったとき雨が降っていたから「雨男」と名付けられていたとか、前述の雨が降って海水浴中止とか、ビートルズが来日したとき台風とか、田植えが土砂降りとか、半年の長い物語を“雨”がうまく繋いでいたところも洒落ている(天候の問題という偶然も手伝っているようだが)。 『ひよっこ』がよくできたドラマとして評価された点は、この何気なさを自覚的に半年間紡いだことで、それは朝ドラにとって珍しいものとして捉えられた。主人公が何も成さない、しかも、とびきり明るいわけではなく、むしろ地味であることが、朝ドラヒロインの3大法則「明るく、元気に、さわやかに」や、近年、増加していた「女の大河ドラマ化」(大きなビジネスを成し遂げる一代記)と相反していたからだ。