Dec 11, 2021 interview

「僕はたけしさんを芸人としてすごく尊敬している」監督・劇団ひとりが『浅草キッド』を語る

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天才芸人は、知られざる幻の浅草芸人によって育てられた――。ビートたけしの自叙伝『浅草キッド』は、若き日に浅草フランス座で深見千三郎に弟子入りし、芸人として少しずつ成長していく姿を描いた作品。この伝説的な原作の映画化に挑んだのが、芸人としても活躍する一方で、小説、エッセイなどでも才能を発揮する劇団ひとり。自作小説を自ら監督した『青天の霹靂』に続く監督第2作として選んだ本作では、昭和40年代の浅草を再現し、寂れゆく街のなかで、師匠と弟子の厳しくも愛情に満ちた日々を感動的に描いている。

若き日のビートたけし役に柳楽優弥、師匠の深見千三郎役に大泉洋という、自由自在に演じ分けることでは定評のある2人が絶妙な呼吸で師弟関係の機微を見せてくれる。共に夢を追う浅草フランス座の踊り子・千春役に門脇麦、ツービートで相方となるビートきよし役を映画初出演の土屋伸之(ナイツ)、深海の愛妻・麻里役に鈴木保奈美、そして風間杜夫、尾上寛之らが脇を固める。

映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』の池ノ辺直子が劇団ひとり監督に、あまりにも酷似していると話題の柳楽さんのビートたけしがどう作られていったのか、そしてNetflixで作られた本作が従来の映画作りと何が違うのかなどをうかがいました。実は池ノ辺は、劇団ひとり監督が司会の番組に出演したこともあるそうです。お話はそこから始まりました。

ビートたけしを演じるには物まねから始まる

劇団ひとり 前に会ってますよね?『やぐちひとり』(テレビ朝日)で。あれって15年ぐらい前でした?

池ノ辺 憶えてくれてました !? 2009年の放送だったから、12年前ですね。あの時の番組内容を憶えてますか?

ひとり 予告編作ってもらいましたよね。

池ノ辺 そうなんです。1つの作品から、いろんなタイプの予告編が出来るっていう企画でした。ちなみに、今回、劇団ひとり監督の『浅草キッド』の予告編も弊社で作らせていただきました。

ひとり そうなんですよね。お世話になりました。

池ノ辺 桑田(佳祐)さんの曲もすごく良くてバッチリ合ってる予告編です。

ひとり 一番怖いのは予告編がMAXだったって言われることなんですよ。たまにありますからね。

池ノ辺 作品が良かったからそんなことないですよ! そういえば、以前とあるテレビ番組にひとり監督が出演されていたんですが、そのときたけしさんのTシャツを着ていたから、今『浅草キッド』を撮っているってことをアピールしてるんだなと思ったんですよ。

ひとり あの番組は私服なんですけど、僕は貰い物のTシャツを着るっていうルールを作っているんです。たけしさんのTシャツを作ってる会社の代表が、もともと北京ゲンジってコンビの一人だった無法松さんっていう人なんですけど、その人が、その番組で着ろっていう圧をかけてくるんです。それで仕方なく着ていて‥‥あとなんかマスクを作ったからSNSで発信してくれみたいな圧も‥‥(笑)。

池ノ辺 そろそろ映画の話をしましょうか。

ひとり 自分が訊いてきたんじゃないですか(笑)

池ノ辺 そうでしたね(笑)。『浅草キッド』を観た人がみんな言うんですけど、柳楽優弥さんがビートたけしさんにしか見えないって。予告編しか見てない人でもそう言うんですよ。どうやって、あの演技を引き出したんですか?

ひとり たけしさんに関しては、とにかくまずは似せるっていうところから始めたので、物まねレッスンみたいなものを連日やったんです。長い時は8時間、会議室でずっと「バカヤロー」「このヤロー」って。漫才やってるたけしさん、フライデー襲撃したときの謝罪会見のたけしさんとか、いろんな喜怒哀楽のたけしさんをずっとやってみてましたね。松村(邦洋)さんにも講師として来ていただいて。

池ノ辺 物まねから始めて、ある段階でそれを演じるに変えるわけですか。

ひとり 物まねのクオリティは上がってきたんですが、だけどやっぱり物まねだなっていう感じになってきたから、これはちょっと芝居の邪魔かもしれないと思ったので、クランクインの前に、物まねは止めようって話になって。

池ノ辺 それ、柳楽さんびっくりしたんじゃないですか? 散々物まねやらしておいて(笑)。

ひとり びっくりしたでしょうね。でも全部を抜くんじゃなくて、魂の部分はたけしさんで。いわゆる声色をまねするのは止めましょうっていうことなんですよ。かといって、みんなが知ってる存在なので、寄せないわけにもいかない。所作の部分とか、そういうところは物まねを残しつつという感じです。

池ノ辺 本当にちょっとした仕草も、たけしさんそのものなんですよね。柳楽さん、大変だったでしょうね。

ひとり 相当、苦労されていましたね。プレッシャーもすごいでしょうから。僕も含めてたけしさんファン、たけしさん信者は多いですからね。