次にどんな作品で驚かせてくれるのか? そんな期待を抱かせる監督は数多いなか、映画ファンの間でとくに注目度がアップしているのが、アリ・アスターだ。前作『へレディタリー/継承』(18年)で想像を絶するショックを届けてくれた彼が、新作『ミッドサマー』でも、これまた予想のはるか上をいく展開とビジュアルを用意した。そしてアリ・アスター監督のこの2作を世に送り出したのが“A24”と、こちらも気鋭のスタジオ。『ミッドサマー』の見どころとともに、A24の作品群の魅力を改めて紹介しよう。
チャレンジ精神に溢れた最新作
白夜のスウェーデン。都会から遠く離れ、大自然の中で暮らす人々。咲き乱れる、色とりどりの花…。まさに天国のような情景をバックにした『ミッドサマー』。しかしこれが、アリ・アスター監督の新作と聞けば、天国から一転、地獄が顔を出すことに期待しない人はいないだろう。そして、その地獄は、とてつもないビジュアルとドラマで、我々観客に襲いかかってくる。
前作『へレディタリー/継承』では、ホラー映画の怖さと過激さ、そして笑いといった、あらゆるエッセンスを詰め込み、成功させたアリ・アスター。次に何が起こるのか、予想できない方向に突き進みつつ、決して破綻していない作劇も高い評価を受けた。この新作『ミッドサマー』も“予想できない”という点では、『へレディタリー』を上回ったと言えそうだ。
アメリカに住むダニーが、恋人とその男友達とともに、スウェーデンの“ミッドサマー”に向かう物語。ミッドサマーとは、北欧で夏至に開かれるお祭のこと。ダニーたちが訪れたスウェーデンの人里離れた共同体では、90年ぶりとなる盛大なミッドサマーが開かれており、白い服を着た住民たちが歌い、踊り、ともに食事をとっていた。しかし、楽園のようなその場所にどこか不穏な空気が漂い始め…と、その後の展開をここで紹介するのは躊躇してしまう。まっさらな気持ちで衝撃と興奮を味わうべきという、見本の一作だからだ。このあたりがアリ・アスターらしい。
監督が監督なので、ショッキングな描写はもちろん用意される。しかし『へレディタリー』のように、ホラーというジャンルでは収まりきらないのが、この『ミッドサマー』だ。人間ドラマと非日常要素、恐怖と感動などのバランス。そして一見、美しい世界で密かに進行する狂気は、むしろ『パラサイト 半地下の家族』(19年)あたりの感触に近いかもしれない。観たことのない世界を映画で描く。そんなチャレンジ精神に溢れているのだ。オリジナルの脚本を自ら書いている点も、ポン・ジュノとアリ・アスターに共通している。
さらに『ミッドサマー』の魅力に大きく貢献しているのが、ダニーを演じる女優だ。フローレンス・ピュー。今年のアカデミー賞では『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』で助演女優賞にノミネートされた、ハリウッド期待の新星である。昨年末、日本で公開された『ファイティング・ファミリー』では、女子プロレスラーを目指す主人公で体当たりの演技&プロレス技に挑んでいるし、5月公開のマーベルの新作『ブラック・ウィドウ』では、タイトルの人気キャラに次ぐ2番手のヒーロー役で登場。まさにいま、波に乗っているスターだ。そんなフローレンスが『ミッドサマー』では、切実な運命を受け止めながら、奇妙な共同体と対峙する難しい役どころで、観客を感情移入させていく。間違いなく、数年後にはトップスターになっている彼女の、初々しい輝きを本作で拝むことができる。