レジェンド声優インタビュー
清水マリ[アトムのその後編]
arranged by レジェンド声優プロジェクト
アニメ黄金期の立役者である「レジェンド声優」と、自らもレジェンドである声優・平野文さんが濃密トークを繰り広げるレジェンド声優インタビュー。今回は、日本初のテレビアニメ『鉄腕アトム』で主人公・アトム役を演じた声優・清水マリさん。文句なしの“スーパーレジェンド”が語る、国内テレビアニメ創成期とは?
ロボット? 妖怪?「はやく人間になりた~い」
- 平野:
中学時代から舞台女優になることを夢みて、それを実現させたマリさんが、『鉄腕アトム』を経て、「声優」としての比重を高めていったのはなぜなんですか?
- 清水:
子供が生まれたことで、劇団で芝居を続けるのが難しくなってしまったからですね。産んでしまったからには責任を取らねばならないな、と。それで劇団を辞めてどうしようかなと思っていたら、劇団の先輩だった大山のぶ代さん(『ドラえもん』ドラえもん役など)が、声の仕事をしながら働く女性が集まった高松事務所を紹介してくださったんです。小原乃梨子さん(『ドラえもん』のび太役など)、増山江威子さん(『ルパン三世』峰不二子役など)、みんなそこに所属していたんですよ。
- 平野:
当時の人気女性声優がそこに集結しているような豪華さですね!
- 清水:
華やかな事務所でした(笑)。忘年会や新年会に子供を連れて行って、皆さんにかわいがっていただいたり、増山さんのお嬢さんからお洋服のお古をいただいたり、急に収録が決まってベビーシッターを頼めない時に堀絢子さん(『新オバケのQ太郎』Q太郞役など)がスタジオの外で子供と遊んでくださったり、とてもお世話になりました。
- 平野:
さて、『鉄腕アトム』終了から2年後、マリさんは、1968年に『妖怪人間ベム』の主人公の1人であるベロ役に抜擢されます。これはご指名だったんですか?
- 清水:
実は私、オーディションって受けたことがないんですよ。ベロ役は、太陽の下、自由に空を飛び回る正義の味方であるアトムとは真逆の役をやってみないかとお声がけいただきました。同じ正義の味方ではあるんですが、闇の中、地面を這い回るような妖怪をやれと。苦労しましたね(笑)。
- 平野:
どういうところが大変だったんですか?
- 清水:
アトムを素でやっちゃったもんですから、油断するとすぐにアトムになっちゃうんですよ。だから、ベロは声帯のどこを使って声を出せばいいのか、どういう演技をすればいいのか、本当に悩みました。おどろおどろしさを出すために、なるべく声を低め、低めにしていくんですが、やっぱり正義の味方なので、声を張らなくちゃいけないシーンもあるんです。そこはやっぱりアトムになっちゃいました(笑)。
- 平野:
もう、それは仕方ないですよね(笑)。
- 清水:
でも、苦労した甲斐あって、アトムとベロを同じ声優が演じていたと知らない人も多いんです。だから「え、清水さんがベロ役だったんですか?」って言われると、やった!って気持ちになりますね。
- 平野:
それ以降の役で、印象に残っているものはありますか?
- 清水:
『宝島』(1978年)のジム・ホーキンズ役ですね。それまで、アトムやベロ、そして『ジェッターマルス』(1977年)のマルスなど、ロボットとか妖怪とかを演じてきたので、やっと人間になれたのがうれしくて(笑)。
- 平野:
そう言われてみれば!
- 清水:
『宝島』は、スタジオの雰囲気もそれまでとは違っていてね。シルバー役の若山弦蔵さんを筆頭に、滝口順平さん、家弓家正さん、そうそうたるメンバーが出演しているでしょう?収録もまるで、セリフの鞘で戦っている感じで、ピシーーーッっとした緊張感が漂ってました。若山さんとは、その後のお仕事でも一緒になったんですけど、会うたびに『宝島』の話ばっかりしてましたよ。彼にとっても、あの作品はとりわけ印象に残っている作品なんだそうです。
- 平野:
格好良かったですもんね、シルバー。
- 清水:
そうなんですよ。だからジムを演じていても大変で……。シルバーは敵役なんですけど、若山さんの素敵な演技に引っ張られて、どんどん彼に惚れている感じになっていっちゃうんです。たった26話の作品でしたけど、とても濃密な経験でしたね。本当に素晴らしい作品でした。うちの2人目の子供も『宝島』が大好きで、いつも「もう終わっちゃった!」って物足りなさそうでした(笑)。
- 平野:
楽しい作品は時間が経つのを忘れさせますからね。ちなみに、その当時のアニメファンの反応はいかがでしたか?やはりたくさんのファンレターをいただいていたのでしょうか?
- 清水:
その頃は、今みたいに声優が表に出てくる時代ではなくて、むしろ隠されていた時代だったんですよ。主人公の男の子を女性が演じているというのも、あんまりおおっぴらにはしたくなかったようですから。だから、ファンレターは全然来なかったですね。
そうそう、まだ『鉄腕アトム』をやっていた頃、生まれたばかりの子供を抱きながら庭に立っていたら、小学5年生くらいの男の子が「ここにアトムが住んでるって聞いたんだけど、どこにいるの?」って訪ねてきたんですよ。それで「ここにいるよ」って答えたら、「変なオバサン!」って(笑)。
- 平野:
ひどい(笑)。
- 清水:
子供からしてみたら、実際、ただの子供を抱いてるオバサンですからね。夢を壊しちゃって悪いことをしたなぁって、反省しました。「今、でかけちゃってるの」とか、上手にウソついてあげればよかった。
でも、そう考えると私って本当に幸運ですよね。そんなにたくさんの作品に出ているわけではないのに、ピンポイントで、人気のある、皆さんの記憶に残るようなキャラクターをやらせてもらえているんですから。