Feb 15, 2021 interview

ミカ・カウリスマキが贈るラップランドの美景で包むささやかなグローバリゼーション『世界で一番しあわせな食堂』

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──監督は音楽ドキュメンタリーなども製作されていますので、音楽面もこだわった部分があったと思います。それぞれの国が持つ特有の音楽文化も意識されたところでしょうか?

タンゴのダンスシーンで流れる楽曲は、すごく典型的なフィンランド音楽です。全体的なスコアは、やはり中国とフィンランドのミックスを意識しました。作曲家の方には、私からそれぞれの代表的な楽器を選んで曲をつくっていきたいと提案しました。
フィンランドの代表的な楽器としてアコーディオン、中国は二胡というチャイニーズヴァイオリンを選び、オープニングのBGMなんかはそのふたつしか使っていません。食と同様、すごく素晴らしいフュージョンが音楽でも見れたと自分自身で思っています。

──BGMではないですがチェンの歌声は素晴らしかったです。キャスティングの際に、歌唱力はひとつの条件だったのですか?

最初から狙ったところではなかったです。
ホング(チェン役)は今回が初めての映画主演ではあるのですが、演劇界では多くの受賞歴を持つとても才能のある俳優さんです。マイヤ(シルカ役)、マッティ(ヴィルプラ役)、カリ(ロンパイネン役)も演劇界や映画界でそれぞれ活躍されている実力派の俳優さんたちです。最も重要視したのはやはりディテールの部分、それをしっかりと演じてくれる役者さんを揃えました。
オーディションでも歌唱力については聞きませんでした。それでも、(劇中では)中国の有名な曲を上手に歌いあげてくれましたね。ただし料理に関してはオーディションで聞いたんです。彼は、つくれるのはお茶とインスタントヌードルだけだと言っていました(笑)。

──それはちょっと意外です(笑)

なので、たくさん学んでもらわなければいけませんでした。中国の素晴らしいシェフの方にも助けてもらいながら、劇中ものすごいスピードで魚をさばいているシーンなんかは、その方の手なんです。

チェンと時間をともにすることで料理への考え方が変わっていくシルカ
『世界で一番しあわせな食堂』©Marianna Films

一番好きな日本人の映画監督は…

──これから映画をご覧になる方へメッセージをください。

とにかく楽しんでいただきたいと思います。そして、地上にいる皆が、地球という場所で一緒にいるためにも、一つになっていくことの大事さが伝わるといいと思ってます。

──最後に、小津安二郎を特集した文献に寄稿されたり、日本映画にもよく精通されている監督ですが、ぜひ好きな日本の映画監督を教えて下さい。

溝口健二監督が好きですね。小津も好きだけれどやっぱり溝口、弟のアキ・カウリスマキは小津派だけど。その他にも黒澤明も好きですし、私の映画は間違いなくその方たちの影響を受けています。

──本日はありがとうございます。

(インタビュー・文/オガサワラ ユウスケ )

『世界で一番しあわせな食堂』は2021年2月19日(金) より新宿ピカデリー、渋谷シネクイント 他、にて全国順次ロードショー

プロフィール
ミカ・カウリスマキ監督

1955年生まれ。フィンランドで最も有名な監督・プロデューサーの一人である。映画監督のアキ・カウリスマキは弟。ジャンルを問わず多くの作品を手掛ける。
日本公開作品としては、『ヘルシンキ・ナポリ/オールナイトロング』(1987)、『アマゾン』(1991)、『GO!GO!L.A.』(1998)、『モロ・ノ・ブラジル』(2002)、『旅人は夢を奏でる』(2012)などがある。『Sonic Mirror』(2008・未)、『Mama Africa』(2011・未)など、ドキュメンタリー映画の監督・プロデュースも。そのほか『Arvottomat』(1982・未) 、『Rosso』(1985・未)、『ヘルシンキ・ナポリ/オールナイトロング』(1987)、『Zombie ja kummitusjuna』(1991・未)では、フィンランド最高の映画賞ユッシ賞を受賞している。フィンランドの北極圏にある小さな町ソダンキュラで開催されるミッドナイト・サン映画祭の創設者のひとり。

公開情報
『世界で一番しあわせな食堂』©Marianna Films
『世界で一番しあわせな食堂』

フィンランド北部の小さな村にある食堂へ、上海から料理人チェンとその息子がやって来た。恩人を探していると言うが、知る 人は誰もいない。食堂を経営するシルカは、チェンが食堂を手伝う代わりに、恩人探しに協力することとなる。恩人探しが思う ように進まない一方で、チェンが作る料理は評判となり食堂は大盛況。次第にチェンとシルカ、そして常連客とも親しくなってい くチェンだったが、観光ビザの期限が迫り、帰国する日が近づいてくる――

監督:ミカ・カウリスマキ
脚本:ハンヌ・オラヴィスト
出演:アンナ=マイヤ・トゥオッコ、チュー・パック・ホング、カリ・ヴァーナネン、ルーカス・スアン、ヴェサ=マッティ・ロイリ

2019 年/フィンランド・イギリス・中国/英語・フィンランド語・中国語/114 分/カラー/シネスコ/5.1ch/G 原題:Mestari Cheng/字幕翻訳:吉川美奈子/配給:ギャガ/ 後援:フィンランド大使館/©Marianna Films
公式サイト:https://gaga.ne.jp/shiawaseshokudo/

2021年2月19日(金) 新宿ピカデリー、渋谷シネクイント 他、全国順次ロードショー