雰囲気を大切にするからこそ、こだわったディテールと時間
──本作の中で、チェンの振る舞い、風習などを通して見える中国文化、もちろん料理も含め、とてもリアリティーがありました。
中国文化のリサーチはかなりしました。気をつけたのはさきほどもお話したようにディテールの細かい部分。通常の作品よりも腰を据えて長い時間かけて撮影することで、ムードを慎重につくり、キャラクターづくりも入念にしていきました。しっかりとどちらもディテールを確かめながらです。
──時間を掛けて雰囲気を自然なものに仕上げていったのですね。
あと面白いことがあって、実際にラップランドの小さな村で撮影したんだけど、ラップランドの人たちは猜疑心が強いところもあって、同じ国の人間でも外から来た人に対して最初は警戒するところがあったんです。受け入れてくれるととても素敵な人達で、(本作ではエキストラとして)村人の方たちが撮影に参加してくれていますが、劇中のキャラクターたちと同じことをまさに我々スタッフも経験できたというのが、とても興味深かったです。
──個人的に好きなシーンで、物語の中盤でチェンが広大な自然の中で太極拳を演じている場面がありました。あの美しい構図は、あらかじめ意図してイメージされていたんですか?
もともと頭の中にあったイメージでした。自然の風景と太極拳を演じるチェンの姿が、絵としても、雰囲気としても、そしてこのキャラクターのその時の感情を表現するに、ぴったりとはまるものがありました。
主演のチュー・パック・ホング(チェン役)に太極拳ができるのか聞いたら、常日頃から習慣として持っていたそうで、普通に演じてもらうことができたんです。
料理と音楽で魅せた異文化のフュージョン
──料理について教えて下さい。トナカイの肉などフィンランドの食材で調理された中華料理などがありましたが、あれは監督のアイディアですか?
ラップランドではトナカイというのはベーシックな食材なんです。現地のものを活かして中国料理をつくるというのは、食文化のフュージョンを表現する上でも自然と思いつきました。
事実、現在はコロナ禍で観光客はいないですけど、中国人観光客が増えたことによって美味しい中華料理屋さんも増えているんです。腕の良いシェフたちも多くいて、現地の食材を使ってフュージョン的な中華料理を創ることはトレンドにもなっています。そういったことも影響しています。
──中華料理に対比して、フィンランド料理はシンプルに映っていました。フィンランド人は食に対しては興味が薄いところがあるのでしょうか?
まさしく。フィンランドは食について言えば、腹を満たせば良いというスタイルが染み付いてて、豚肉やジャガイモ、ソーセージとかのシンプルな食事、それでいて健康的とも言えないんです。
今はいろんな素晴らしいレストランがたくさんあって、必ずしもそうではないけれども、バーやガソリンスタンドに併設しているようなお店だと、胃が酸化しちゃうようなメニューが出てきます。その上で、5Lぐらいコーヒーを飲んだりするから、お腹に良いわけがない。本作は、それを見たチェンが、健康面にも効く料理を提供していくという話でもあるんだよね。