Sep 04, 2017 interview

天才ノーラン、すべては狙いである“主観のストーリーテリング”から生まれる―『ダンケルク』インタビューで明かす映画への情熱

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監督の名前だけで、劇場に観客が集まる――。現在、世界の映画界でその筆頭に挙がるのが、クリストファー・ノーランだろう。『ダークナイト』3部作(05/08/12)や『インセプション』(10)、『インターステラー』(14)など、常に“観たことのない”世界を映像で展開し、我々を驚かせてきたノーラン。そんな彼が初めて実話を映画化して話題を集めるのが新作『ダンケルク』だ。すでに公開が始まったアメリカでは早くもアカデミー賞有力候補とも噂されている。日本でも公開に向けて期待が高まるなか、来日したノーランが作品への熱い想いなどを明らかにした。

 

「撮影は簡単だったと言い切りたい」――“謙虚”な姿勢で挑んだこれまでと違う現場

 

──今回、あなたは初めて実話の映画化に挑んだわけですが、この“ダンケルクの戦い”には歴史上でも特別な思いがあったのですか?

多くのイギリス人がそうであるように、私もこの物語を聞いて育ったんだ。イギリス人はダンケルクの戦いを、神話やおとぎ話のように捉えている。そして深く知れば知るほど、シンプルな神話である以上に、リアルな人間たちの物語に感動させられるんだ。

──心にしみ込んでいた物語を、なぜこのタイミングで映画にしたのでしょう。

特に「今、この時代に」という意識はなかった。ダンケルクを描く映画が、今までなかったのが不思議なくらいで、たまたま私にそのチャンスが来たということ。このチャンスを逃す手はないと、映画監督として強く感じたのさ。

 

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──陸・海・空のそれぞれでの攻防を描くわけで、撮影は過酷を極めたのではないですか?

とにかく譲れないのが、リアル感だった。だから実際にこの出来事が起こったダンケルクの海岸で撮影したし、飛行機や船も本物を使ったんだ。そういう意味で、あらゆるシーンが私にとってチャレンジだったね。特に海岸のシーンは過酷だった。悪天候に見舞われると、風も強くなり、波も高くなる。思ったとおりに撮れないことが何度もあったよ。

 

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──ということは過去の作品と比べて、今回の撮影が特殊だったわけですね。

過去に撮った作品と違ったのは、1940年代の事実を再現したからだと思う。当時の状況は、死ぬか生きるかという過酷さで、恐怖という点は計り知れないレベルだ。それに比べれば撮影している私たちクルーの苦労なんて、“戦争ごっこ”をしているようなもの。だから謙虚な気持ちになれる。その感覚が、これまでの撮影と違っていた。謙虚な気持ちでいさえすれば、むしろ撮影は簡単だったと言い切りたいね。

 

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“時間”に特別な意味を見出す理由は「キャラクターの“主観”を強調」するため

 

──陸・海・空のドラマが、時間の進み方が異なるという設定がなかなか斬新です。

本作でスピットファイアのパイロットが経験するのは1時間の出来事だ。彼の時間の感覚を、映画の全体に当てはめてみたのさ。パイロットの1時間が、地上にいる兵士たちにとっては1週間に相当すると考えた。1時間と1週間の違いはあるが、経験のスケールという点が一致している。そういう意味で、独自のアプローチをとったんだ。

 

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──その時間の特殊な処理は、『メメント』(00)や『インセプション』(10)、『インターステラー』(14)など、あなたの映画の特徴でもありますね。

『メメント』は記憶を失っている主人公なので、映画を観る人にも彼の記憶を伝えたくなかった。そこが大きなチャレンジとなり、時間を逆行させる設定にしたんだ。そういった意図的な時間の操作は、『ダンケルク』と『メメント』の共通点かもしれない。私が脚本でこだわるのは、キャラクターの“主観”を強調することで、そのために時間という要素に特別な意味を見出すわけだ。こうした時間の操作は、映画というメディアだからこそ表現できる特別なテクニックだと思う。そして観る人にも大きなインパクトを与えることができる。すべては、私が狙う“主観のストーリーテリング”から生まれているよ。

──救助のボートが定員を超え、一人だけ降ろされるのがフランス人でしたが、現実を反映させているのですか?

あのシーンで表現したかったのは、敵と味方の感覚の変化だ。大きな観点からすれば、イギリスとフランスは同盟国。しかし追い詰められた状況になれば、イギリス人は自国の仲間を優先して守り、フランス人を排除しようとするだろう。さらに状況が悪化すれば、自分の部隊だけを選んで、他の兵士を切り捨てる。そして最終的には、自分だけが生き残ることを選ぶ。これがサバイバルへの衝動だ。『ダンケルク』の物語には、そういった人間のサバイバルの様々なパターンが出てくる。

──人間の本能が描かれているのですね。

人々が力を合わせて生き残り、勝利する。その結果を左右するのが、人間の本能や、人間の脆さだろう。大きな運命が個人に託されるわけだ。ただ『ダンケルク』のテーマは、そうした個人の本能やヒロイズムではなく、軍隊や民間も含めた集団のヒロイズムだ。そこにフォーカスした。そのうえで一人ひとりがいかに故郷に帰るかという苦闘を描いたつもりだよ。

 

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