Oct 11, 2016 interview

友達2人で作り上げた“世間の最大公約数”の主人公
映画『何者』佐藤健×朝井リョウインタビュー

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試写を見て「地獄だ」と思いました。こんなにダサいんだ、と(朝井)

――まずは外見から朝井さんに近付こうとしたわけですね。そして、その「面白い」とおっしゃる人間性の部分も寄せたのですか?

佐藤 ある程度のところまでは。ただ、そこはあまり表に出す必要はないかなと思いました。逆にファッションなど外見はかなり寄せましたね。

朝井 私が好んで着ているファッションを映画の中の拓人も着ているのですが、それを見て初めて「ダサいんだ」と気付き愕然としました。皆さんきっと、「こんなダサい佐藤健は見たことがない!」と思いますよ。

佐藤 僕が拓人になりきるためには、朝井くんのファッションが必要でした。もちろん同じ服を着ていてもかっこいい人はかっこいいはずなんですけど。

朝井 私は試写を見て「これが地獄か~」と思いました。

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――「このダサい拓人は自分自身なんだ」と?

朝井 物質を媒介して自分と重なってしまいました。お腹が痛くなりましたね。

――原作者という立場から見て、佐藤さんの拓人はいかがでしたか?

朝井 私は佐藤さんが主演と聞いた時驚いたんですよ。『何者』は見ている方が拓人に感情を乗せられないと意味がないのに、「観客はこんなイケメンに自分を重ねることができるのだろうか?」と思ったんです。でも、見事に全身で‘世間の最大公約数’としての拓人を表現していたので、演じたのが佐藤さんでよかったと思いました。…その手法が私に似せることだったのは皮肉なことですけど。

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朝井作品の「性格の悪さ」に共感してしまうんです(佐藤)

――では最後に、「otoCoto」は電子書籍の情報を扱っているサイトですので、最近読んで面白かった本やお薦めの本を紹介していただけますか?

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佐藤 朝井くんの書いた『スペードの3』はしびれました。そして、「朝井リョウはブレないな」と思いました。彼は普通の人とは違うところから物事をとらえる視点を持っていると思うんです。それは世間一般からは“性格が悪い”とされる視点なんですけど(笑)。

朝井 あれ、おかしいな。ハートフルな話なのに…。

佐藤 ただ、その視点に僕はとても共感するんです。「正しい」と思ってしまう。共感するということは、自分も“性格が悪い”からなんですよね…。でもそこが朝井作品の面白いところだと思います。

朝井 へぇ、意外ですね。私はそういうつもりでは書いていないので…。

佐藤 そこが君と僕の違いだよね。いいかげんに性格が悪いことを認めたら?(笑)

――朝井さんはいかがでしょうか。

朝井 私は今まで評伝は難しくて読めないと思っていたのですが、今年出版された2冊の評伝がとても面白かったんですよ。まず1冊目は、アナーキストの伊藤野枝さんの評伝『村に火をつけ、白痴になれ』という本です。伊藤野枝さんは「習俗打破、習俗打破」と言って世の中で決められていることをとにかく打破していく女性で、わずか28年なのですが、朝ドラになるんじゃないかと思うような生涯を送っているんです。評伝と言いつつ文章自体にとてもライブ感があって読みやすいので、いろんな場所でこの本を薦めています。あとがきも面白いのでぜひ読んでいただきたいですね。

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――そしてもう1冊は。

朝井 槍投げの溝口和洋選手の評伝『一投に賭ける』です。彼はそれまで正しいとされていたセオリーをすべて分解して、自分に適した方法を見つけていくのですが、たとえば槍投げにおける「これまでスタンダードとされていた練習方法は本当に日本人の骨格にあっているのか」という疑問は、槍投げだけでなく現代のあらゆることに当てはまると思うんですよ。「正しいと言われているアレとかコレって、本当にそうなの?」と思うことってたくさんありますよね。この2冊に共通しているのは、どちらも常識を疑っている人の話だということ。自分を考え直すきっかけにもなる本だと思うので、どちらもお薦めです。

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取材・文/左藤 豊 撮影/吉井 明

プロフィール

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佐藤 健(さとう・たける)

1989年3月21日生まれ、埼玉県出身。ドラマ「ROOKIES」、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10年)、「天皇の料理番」(15年)などに出演。主演を務めた映画『るろうに剣心』全3部作(12年、14年)では、興行収入125億を超える大ヒットを記録。主な出演作に『ROOKIES―卒業―』(09年)、『リアル~完全なる首長竜の日~』(13年)、『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(13年)、『バクマン。』(15年)、『世界から猫が消えたなら』(16年)。写真集+DVDブック『X(ten)』発売中。

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朝井リョウ(あさい・りょう)

1989年生まれ、岐阜県出身。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。2011年『チア男子!!』で高校生が選ぶ天竜文学賞、2013年『何者』で直木賞、2014年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞。ほかの著書に『星やどりの声』『もういちど生まれる』『少女は卒業しない』『スペードの3』『武道館』『世にも奇妙な君物語』『ままならないから私とあなた』、エッセイ集に『時をかけるゆとり』がある。8月には『何者』の登場人物たちによるアナザーストーリー六篇からなる新刊『何様』が発売された。


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映画『何者』

ひとつの部屋を「就活対策本部」として、定期的に集まる5人の大学生。それぞれの思いが複雑に交錯し、徐々に人間関係が変化していく。やがて内定という“裏切り者”が現れた時、これまで抑えられていた妬みや本音があらわに。人として誰が一番価値があるのか? 自分はいったい「何者」なのか? 若手実力派俳優たちが集結し、就職活動でライバルとなる登場人物たちと同様に演技合戦を繰り広げる! 原作は、平成生まれの作家・朝井リョウによる直木賞受賞作。メガホンを取るのは、若くして演劇界で数々の賞を受賞している鬼才・三浦大輔だ。まだ誰も見たことのない「超観察エンタメ」、ここに誕生!

原作:朝井リョウ『何者』(新潮文庫刊) 監督・脚本:三浦大輔 出演:佐藤 健 有村架純 二階堂ふみ 菅田将暉 岡田将生/山田孝之 音楽:中田ヤスタカ 主題歌:「NANIMONO(feat.米津玄師)」中田ヤスタカ(WARNER MUSIC JAPAN/unBORDE) 2016年10月15日(土)全国公開 公式サイト:http://nanimono-movie.com

原作「何者」朝井リョウ/新潮社

拓人は就職活動を目前に控え、同居人の光太郎、光太郎の元恋人の瑞月とともに、瑞月の留学仲間・理香の部屋に集まり、理香と同棲中の隆良も交えた5人で就職活動の情報交換をするようになる。しかし、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする本音が、彼らの関係を次第に変えていき…。平成生まれの作家・朝井リョウが大学生の自意識をリアルにあぶり出す長編小説。

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関連書籍はこちら

「スペードの3」朝井リョウ/講談社

ミュージカル女優・つかさのファンクラブ「ファミリア」のまとめ役という地位にしがみつく美知代。華やかなつかさに憧れを抱く、地味で冴えないむつ美。かつて夢組のスタートして人気を誇っていたが、最近では仕事のオファーが減る一方のつかさ。不満を抱えた3人の人生が交差し、動き出す。直木賞作家・朝井リョウが初めて社会人を主人公に描いた作品。

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「一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート」上原善広/KADOKAWA/角川書店

「全身やり投げ男」の異名を取り、1989年当時の世界記録からわずか6センチ足らずの87メートル60を投げた溝口和洋。WDP(世界グランプリ)シリーズを日本人で初めて転戦し総合2位にもなった不世出のアスリートだったが、90年以降は試合から遠ざかり、伝説だけが残った。プロとは? アスリートとは? 日本人が海外選手に勝つための方法とは? 25年の歳月を経て、彼の真実がここに明らかとなる。

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「村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝」栗原康/岩波書店

大正時代の婦人解放運動家、無政府主義者である伊藤野枝の一生を描いた評伝。筆1本を武器に、結婚制度を否定し社会道徳と対決し続けた彼女が、生涯を賭けて燃やそうとしたものはいったい何なのか。自由を求めて100年前の日本を疾走した野枝の思想や人間像に、気鋭の政治学者・栗原康がほとばしる情熱、躍動する文体で迫る。

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